はじめに
組織の中で働いていると、不思議なことが起こることがあります。
業務上の問題を誰よりも早く発見し、「このままでは顧客に迷惑がかかる」「今のうちに改善した方がよい」と報告した人が、なぜかその後、「細かいことを気にしすぎる人」「いつも問題ばかり指摘する人」「協調性がない人」と扱われるようになることがあります。
本来であれば、問題を早期に発見してくれる人は、組織にとってありがたい存在です。重大なトラブルになる前に対処できますし、業務を改善するための貴重な情報を提供してくれるからです。
それにもかかわらず、問題を発見した人が評価されるどころか、「この人がいるから職場が揉める」と、まるで本人が問題の原因であるかのように扱われてしまう。
なぜ、このような逆転現象が起こるのでしょうか。
問題を知らせる人と、問題そのものは別である
例えば、ある部署で以前から業務上のトラブルが断続的に発生していたとします。
これまで大きな問題にならなかったのは、現場の担当者がその都度カバーしていたからかもしれません。しかし、新しく担当になった人が状況を確認し、
「この運用のままでは、いつか大きな問題になるのではないでしょうか」
と上司へ報告しました。
本来であれば、ここで上長が確認すべきなのは、「その指摘が事実かどうか」です。
実際に業務フローに問題があるのか。
同じミスが繰り返されているのか。
誰がどこで判断し、どこでエラーが起きているのか。
ところが、組織によっては、途中からまったく別の話が始まります。
「他の人は何も言っていないのに」
「あなたの言い方にも問題があるのでは?」
「どうしてそんなに悪く考えるの?」
「もっと周囲とうまくやってほしい」
指摘された内容そのものではなく、問題を発見して指摘した人の性格や、コミュニケーションの仕方について議論し始めるということです。
もちろん、指摘する人の伝え方に改善すべきところがある場合もあるでしょう。
しかし、伝え方に問題があったことと、指摘された問題が存在するかどうかは別の話です。
ここを一緒にしてしまうと、本来向き合う必要があった問題がそのまま残ります。
そして、問題を早期に発見した意味が失われるだけでなく、本来であれば回避できたはずの損失やトラブルを、組織が後になって被ることにもなりかねません。
組織が「原因」ではなく「指摘した人」を処理し始めるとき
では、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。
一つの理由として考えられるのは、問題そのものを解決するより、問題を指摘した人を「扱いにくい人」として処理する方が簡単だからです。
業務の仕組みに問題があると認めれば、その原因を調査しなければなりません。
これまでの判断に間違いがなかったかを確認する必要もありますし、場合によっては、管理者自身が「自分の判断が適切ではなかった」と認めなければならないこともあります。
組織の仕組みを変更したり、責任分担を見直したりする必要も出てくるでしょう。
それに対して、
「あの人は周囲と衝突しやすい」
「あの人は細かすぎる」
「あの人のコミュニケーションにも問題がある」
という話にしてしまえば、組織の仕組みそのものを見直す必要はありません。
その代わりに、本人に注意する。配置を変える。場合によっては、その人が職場を離れる。
そうした対応を取ることで、あたかも問題そのものを解決したかのように扱われることもあります。
しかし、それで元々の業務上の問題が解決されたわけではありません。
つまり、「問題がなくなった」のではなく、「問題を指摘する人がいなくなった」だけなのに、組織が改善したように見えてしまうのです。
このように、本来複数の人や組織が負うべき責任を特定の一人へ集め、その人を「問題そのもの」として扱う現象を「スケープゴート化」と呼んでいます。
周囲の人たちまでが「あの人にも問題がある」「あの人さえいなければ」と同調すると、個人間の対立だったものが、やがて組織全体による責任転嫁へと変わっていきます。
決して珍しいことではなく、組織の中では比較的起こりやすい現象だと思います。
「問題人物」という評価が出たら、最初の問題へ戻ってみる
もちろん、問題を指摘する人が、いつも適切な形で指摘しているとは限りません。
事実確認が不十分な場合もあれば、感情的になってしまうこともあるでしょう。その場合は、その点について改善すればよいことです。
しかし、
「言い方にも問題があった」
ということと、
「最初に指摘した問題が存在しなかった」
ということは、全く別の話です。
ここを混ぜてしまうと、本当に解決しなければならない問題が見えなくなってしまいます。
もし職場で、ある人が急に「問題人物」「扱いにくい人」「協調性のない人」と言われるようになった場合、一度、時間を巻き戻してみることをお勧めします。
その人は、最初に何を指摘していたのでしょうか。
顧客からのクレームでしょうか。
業務上のミスでしょうか。
責任分担の曖昧さでしょうか。
誰かの判断放棄でしょうか。
それとも、将来大きな問題になる可能性のあるリスクだったのでしょうか。
そして、その問題は実際に解決されたのでしょうか。
ここを確認すると、「人間関係の問題」だと思われていた出来事の見え方が変わることがあります。
問題を発見した人が、いつの間にか問題そのものとして扱われている場合、組織は本来見るべき場所とは違うところを見ている可能性があります。
その結果として、問題そのものが放置されるだけでなく、本来組織にとって貴重だったはずの人材まで力を失ってしまうことがあります。
何が起きたのか。誰にどのような責任があったのか。そして、最初に発見された問題は解決されたのか。
人物評価を始める前に、この三点を事実として確認することが大切です。
まとめ
組織にとって、問題を発見できる人は本来、とても重要な存在です。問題が大きくなる前に異変に気づき、見て見ぬふりをせず、それを伝えてくれるからです。
ところが、組織が自分たちの問題を見ることを避け始めると、警告を発した人を「問題人物」として処理することがあります。もし職場で突然、誰かが「面倒な人」「協調性のない人」と評価され始めたら、その評価だけを見るのではなく、
「この人は、そう評価される前に何を知らせようとしていたのだろう?」
と、一度問い直してみてください。問題を知らせるセンサーを取り外しても、問題そのものがなくなるわけではありません。
むしろ、組織にとって本当に怖いのは、問題が起きること以上に、問題が起きても誰も知らせなくなることなのではないでしょうか。
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