ビジョンが見えない人への処方箋
最近私が増えてきたなと感じるものが「将来のビジョンが見えない」「自分が何かで活躍できるか心配」といった内容の相談です。
変化のスピードが速く、数年後を予測することも難しい社会になり、私たちの不安を増長させるようなニュースも多くなりました。国内では年金受給額の問題もそうですし、AIの台頭による変化は全世界共通の課題でしょう。英オックスフォード大学の「近い将来、現在ある仕事の90%はAIによってなくなる」との発表は社会に衝撃を与えましたし、国内でも野村総合研究所が、今ある仕事の約49%は15年以内になくなるというレポートを発表しています。 (※)
誰もが将来や先行きの不安を抱える今、ビジョンが持ちにくい社会をどのように進んでいくべきかをお話します。
ビジョンは必要か
ビジョンが見えない、ない、ということ自体は悪いことではありません。その人自体の価値を左右するものではなく、1つの視野のようなものでもあるので、たまたま見えにくいときや全く見えない時もあるでしょう。
では、ビジョンや目標がないまま人生が進んでいくと、どうなるでしょうか?
目的地も定めず地図もなしで旅行をするように、行き当たりばったりの人生を歩むようになるので、スリルやサプライズはあり刺激的かもしれませんが、同行者は困りますからリーダーには向かないと思います(笑)。
割り切って「明日は明日の風が吹く」という人生で良いと覚悟を決めたとしても、「フーテンの寅さん」のように生きることは「男も女もつらいよ」です。多くの人はそういう人生を好んでは選ばず、やはり小さくてもビジョンや目標を持って生きる人生を望むのではないでしょうか。
実際に、ビジョンや目標があった方が行動がハッキリと明確になりますし、それに伴い成長も早くなります。そうすると同じ時間を使っても、結果的に多くのことを成し遂げられて、得られる豊かな人生となることは否定できないでしょう。
やはり私は、人生にはビジョンや目標はある方が良いと思います。
ビジョンがない今の自分を受け入れる
持てるならばビジョンは持ちたいものですが、実際には難しい時もあります。
しかし「今はビジョンが見えない」だけであって、「成長すれば今よりは見える」ものです。まずは「今はビジョンがない」という自分を受け入れて、無理矢理には見ようとしないほうが良いです。自分で強引に大きなビジョンを見ようとしたところで、間違っていることも多いですし、焦燥感が強くなったり、輝いて見える人と比較したりし始めます。「今は見えないけど必ず見よう」、「いつかは見える」と信じ、余計な心配はしないことです。
遠い宇宙の星々を肉眼で見ようと思っても見えないように、見えないものは見えませんから、将来望遠鏡を作ったり買ったりできるように今は勉強して成長すれば良いだけです。
では、どうやったら見えるようになるのか。私の考える処方箋を3つ挙げてみたいと思います。
ビジョンを持つ方法
①生涯学習のススメ
今回私が1番お伝えしたいことが、生涯学習への意識転換です。
これまでの日本は若年期メインの学習が中心で、高校や大学卒業時に人生のすべてが決まるかのような風潮がありましたが、人生100年の長寿時代となった今は生涯学習の時代で、学ぶ機会も、活躍する機会も一生です。
ビジョンが見えない時に、自分にかけるべき言葉は「私は大器晩成型だ」です(笑)。
宝探しも、子供のイミテーションの宝物は誰でも見つけられる簡単な所に隠してありますが、大人が得たい埋蔵金や財宝は時間をかけて探すから、甲斐もスリルも価値もあります。人生のビジョンや目標も、簡単なものならすぐ見つかりますが、大きなものは生涯かけて探してこそ見つけられるから面白いのではないでしょうか。
ミケランジェロがサン・ピエトロ大聖堂の主任建築士に就任したのは74歳と言われていますが、彼はそれまでの経験を活かして世界的な名建築物を築きました。
私の師事する牧師先生は、70歳を過ぎた今も精力的に学び行動されていて、体育会運動部の大学生も1週間一緒にいると鼻血が出るくらいの活動量ですが、これからやりたいことと挑戦することが200以上あるそうです。ステキな生き方ですよね。そんな彼が70代、80代の方から人生について聞かれた際のアドバイスは、「健康に気をつけて」ではなく、「もっと人生を磨き、学びなさい」というものでした。
どんなに年齢を重ねても、人間は開発していない分野では幼子です。ビジョンも考えも、まだまだ伸び代があると思って、生涯学んでいきましょう。
「あなたがたは堅い食物ではなく、乳を必要としている。 すべて乳を飲んでいる者は、幼な子なのだから、義の言葉を味わうことができない。 しかし、堅い食物は、善悪を見わける感覚を実際に働かせて訓練された成人のとるべきものである。」(ヘブル人への手紙 5:12-14 )
②テクノロジーや国際関連のニュースを見る
テクノロジーや国際関連、ビジネスなどのニュースを見るのもオススメです。時代の変化を作っている人や組織のニュースを見ながら、「自分ならどうするか」と考えながら、将来の自分と重ね合わせて見るのも、ビジョンを持つ良いトレーニングになるでしょう。
実はこの処方箋、かの織田信長も実践していたのです。
日本の天下統一というビジョンを戦国時代に初めて持ったのが織田信長だと言われていますが、キリスト教を容認することで世界から様々な文化を取り入れたり、規制を撤廃した自由取引市場を作って経済を活性化させた、当時の武将としてはビジョンあるリーダーでした。彼が徹底して行なったことが情報収集だったと言われています。人類の発展と共に徐々に活動領域も広がって、今は地球にとどまらず宇宙ビジネスが隆盛ですが、信長が今生きていたら、どんなビジョンを描くのでしょうか。
昔は瓦版、今はネットニュースと形は変わったものの、情報は私たちに必要なものだからこそ、不変の有料サービスです。ニュースは不安なことだけではなく、私たちに可能性やチャンスも与えてくれます。信長より私たちの方が機会や情報に有利な立場ですから、当時に比べたら可能性は無限大です。
今は情報が溢れる時代ですが、見たい分野をこちらが取捨選択できる時代でもあります。ニュースや情報とも賢く付き合っていきたいものです。
③ビジョンのある人や組織と共にする
山の魅力を知っている人と一緒に山に登ってこそ、山の面白さが分かるように、ビジョンがあるリーダーや組織と一緒にいてこそ、ビジョンを持つことができます。
成長し、大きくなっていくリーダーや組織を見つけてコバンザメのようにくっついていくのも良い戦法です(笑)。
ここで大事なのが「本物」についていくことです。では、どうやったら「本物」を見つけられるでしょうか?
業種や会社の見きわめ方は財務状況などそれぞれポイントがあると思いますが、本質的なお話をするならば、木を見るとき、実をみてこそどんな木なのか判断できるように、ついていく人や組織を選ぶ時に、外見や派手さなどで選ぶのではなく、どんな言葉を話すのか、どんな行動をするのか、どんなことをしてきたのかを見て判断することが大切です。
ビジョンは自分が見るもの
よく、自分が属している組織のビジョンが見えないという人がいます。ここで注意すべきことは、ビジョンは「誰かが見せてくれるもの」ではなく、「自分が見るものだ」ということです。
飛行機や船は人を乗せて進んでいきますが、実際にそこで何を見て何を感じるのかは自分次第です。「うちの組織のビジョンが見えない」ということは、「僕は一緒にしっかり考えていませんよ」ということを公言しているようなものです(笑)。
もちろん組織の指導者や経営者は、ついてくる人たちにビジョンを見せていく責任はありますが、自分自身でも見ようとする努力が必要です。自分の人生ですから、他力本願になるのではなく、質問するなり考えるなり行動していけば、必ず見えるはずです。その方が周りに左右されず疲れない人生になるでしょう。
最後に
「言霊」という言葉があるように、言葉には力が宿っていると言われています。つまり、自分がどんな言葉を発するか、というのは思っている以上に様々な影響があるのです。
「ビジョンが見えない」「ビジョンがない」と言うより「今は探し中」と表現を変えることで、自分の行動が変わって見えてくるのではないでしょうか。
この記事を読まれた皆さんが、大きなビジョンを持って、長い人生を希望的に生き、末長く活躍されることを祈念いたします。
※1株式会社野村総合研究所:『日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に~ 601 種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~』より
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