先が見えづらい時代どのようにしてキャリアを築くべきか

先が見えづらい時代どのようにしてキャリアを築くべきか

はじめに

変化の激しい時代、どのような組織・企業で働くにしても、一生安泰を求める働き方は難しい時代になりました。

高度経済成長の時代は景気も右肩上がりで、先輩に倣い、ある程度我慢していれば、在籍している会社で出世が叶い、それに応じた報酬の上昇が期待できました。激しく働く時代である一方、先行きに対しての安心感がある時代でした。

ところがバブル崩壊以降、大手企業の倒産、就職氷河期、リーマンショック、様々な企業のリストラクチャリング、希望退職など、1つの組織や企業で安心して働き続けることができる人の割合は高度経済成長の時期から比べると各段に減っている状況と言えます。

また、M&Aなど企業買収も以前に比べると大幅に増えており、1つの組織で長く働いていたとしても、その地位や報酬はある日を境に変化をする場合があります。

私自身、企業を買収する側、される側の両方を経験してきましたが、オーナー以外の役員や上位職であればあるほど、「買収される側」の人材はいかなる理由であっても、厚遇される可能性は低い場合が大半であると思います。

ひと昔前の安定を求めて会社員になるという選択肢そのものが、実は安定的なものではないことは組織や人事に関わる仕事をしていて特に感じます。

今回は変化が激しく先が見えづらくなってきている昨今、どのようにキャリアを歩んでいけば良いのか考えていきたいと思います。

組織への依存が通用しない現実

新卒や中途の採用場面で下記のような考え方の方によく出くわします。

有名大学を卒業して、教育制度が整っていてCMを流しているような有名企業に入ることができ、そこそこの業績を出していれば安心。スキルは会社に所属していれば伸びていき、会社の制度にある研修制度を活用していればスキルはつく。

仕事や上司と合わなければ、転職してより自分に合った会社を見つけて活躍していける。何よりも働く環境が大事で「自分に合っている」ことが前提条件。転職を考えたのも、上司や会社と考え方が合わないので辞めて、自分に合った考え方の会社に行きたい。

結論からお話すると、この考え方は現実的には無理があると考えています。

①教育制度が整っている会社でカリキュラムに沿って研修を受ければスキルが身につくのか?

私自身、研修講師の仕事をしているのですが、研修効果のモニタリングを行なった際、研修効果が確認できた人の割合は5%との結果が出ました。測定方法などにもよるところもあり、一概には言えないですが、想定よりもかなり低い数字であったところは強く記憶に残った出来事でした。

研修の効果が5%であった理由を検証したところ、研修はあくまでも「知る」「考える」の座学をメインとしているため、結局のところ、研修効果を出していくためにはその後の「実践」して「スキル化」するフェーズが最も重要であることが分かりました。

研修そのものも効果的なアプローチではあるものの、その後、現場の実務において、その研修内容がしっかり「実践」されているかモニタリングとフィードバックを繰り返していく必要があります。研修で学んだことで効果を出すためには実践を通して自分自身を変えていく必要があるためです。

また、同時に検証したこととして高い実績を出すハイプレイヤーがなぜ、その業績を支えるスキルを手に入れたのか、丁寧にヒアリングをしていくと下記の各プロセスを経験していることが分かりました。

A:修羅場経験(追い込まれた経験)
B:課題を把握し、自ら学習し改善した経験
C:自分自身の考え方を振り返り変化した経験

つまり、修羅場を経験し、自身と向き合いながら、自分自身を変化させてきた結果、新しいスキルを身につけることができたと考えられます。そこには学歴的な要素や研修を受けてきたか否かは相関していないことが分かりました。

このハイプレイヤーの特徴から考えると、スキルは研修を受けるから手に入るものではなく、仕事の現場に向き合いながら、自身を変化させる必要性にかられ、自ら学習し、自らを変化させる「仕事に対する考え方」と「自身を変化させる実践」が重要な要素であると言えます。

②自分に合った会社を見つけることができれば活躍できるのか?

私は仕事がら採用面接官をすることがあるのですが、転職活動の中で「自分に合った会社」を探すために転職活動をされる方によくお会いします。

結論からお話すると、求職者が数回の面接だけで「自分に合った会社」を見つけることは現実的には難しいと考えています。

面接をした上司や同僚が人間的に「合いそうだ」というところまでは感じたり、見えたりする部分はあるかもしれません。「合う人(合いそうな人)」がいるから、「自分に合った会社」を見つけたと考える人も少なくないと思います。

しかしながら、多くの組織で直属の上司や同僚は数年単位で変化していきます。配置転換や上司・同僚の転職は高い確立で発生し、少なくとも「合わない」上司や同僚と同じ部署になる可能性は多分にあるため、「人間的な相性」を重視しての転職活動は若干危険かもしれません。

会社の経営の方向性に影響を及ぼすほどの上位者やキーマン採用以外は、組織がその人に合わせることは稀であり、「合う」か「合わない」ではなく採用される会社に「合わせる」ことが社員には求められます。

また、採用の現場では様々に工夫を凝らして求職者を集めるために時間と労力とお金をかけて良い企業イメージを創り出すための「プロモーション」を行ないます。当然ながら会社の良い側面にフォーカスしたプロモーションを行なうため、フォーカスされていない側面に出くわすと「思っていた環境と違う」といったような「入社後のギャップ」が生じてしまうパターンがあります。

また、組織的に何かしらの課題がない会社は存在しえないのではないかと思うぐらいに大手企業や中小・ベンチャー企業関係なく、組織課題は尽きないものであると認識しておいた方が良いのではないかと考えます。人が集まる以上はその組織は何かしらの対人的な「摩擦や葛藤」はどの組織でも存在しえると考えていた方が良いと思います。

自分に合った会社を探し続ける人も実際にはいますが、「組織や環境に合わせ自分を変化させる」よりも「自分に合う」会社や組織を探し続けるため、短期の転職を繰り返えすか、不平・不満を抱えたまま、組織に所属し続け、「活躍」とは程遠い人材となってしまいます。

①と②の考え方の問題点は「自分を中心」として「環境」を求めていることの矛盾にあると考えています。

スキルは「自分を変化させたい」と考える人が一定の訓練・練達をしないと身につかないため、研修制度が整っているからといって身につくものではありません。また、一定のスキルが身につく前から「自分に合わせてくれる」組織が存在する可能性は極めて稀であることが現実であると考えます。

責任を果たしてこそ必要とされる

先が見えないキャリアのことを考えると、どうしても「暗い」気持ちになってしまうことがあります。

しかし、この時代の良い側面としては「選択の自由度」にあると考えています。

先の高度経済成長の時代に比べると、転職の自由度は格段に上がり、「転職回数」をマイナスに見る風潮も弱まりつつあります。また、中途採用も学歴や、1社に長期在籍していたといったような外枠を重要視する採用に比べ、職歴やその中での成果・業績にウェイトを置く採用がスタンダードになりつつあります。

転職が当たり前になっている現状においては、以前に比べ、採用する側の会社組織と採用される側の求職者がより対等に近づいているのではないかと考えられます。

ただし、対等となれるビジネスパーソンには条件があると考えられます。その条件は在籍した各職場において、役割に応じた責任を果たして来たか否かです。

仕事は配属される部署や上司などの環境や状況が恵まれていようがそうでなかろうが関係なく、報酬が支払われている以上、「責任」に応じた「結果」が求められます。

会社は人を雇う際、報酬以外にも、エージェントなどに支払う「採用費」や福利厚生に関わる「福利厚生費」、教育に関わる「教育費」がかかります。つまり、単に「給与」を支払う以上に人材に投資をしています。

組織は当然のことながら採用目的に適う「責任」を果たしてくれる人物を欲します。

反対に自分自身の「責任」に対する意識や行動、「結果」が乏しいのにも関わらず、「自分に合うか否か」を重視されてしまうと、雇う側からすると「正直しんどい」というのが本音です。対等にはなれません。経営者の本音としては雇い続けることは組織にとってマイナスであり、難しいと考えている場合が数多くあります。

このことから考えると雇われるのでれば会社が自分に「合う」か否かではなく、自分自身が与えられた役割に対してどれだけその「責任」を果たせるかに集中し、自分自身を変化させ「結果」を出すことが最も重要であると考えられます。

「責任を果たしてくれる人」は在籍する会社の評価だけではなく、競合会社や顧客企業、取引先からも「実績」に裏打ちされた信頼を勝ち得ています。また、転職の市場においても、「実績」に裏打ちされた人は複数の企業から声がかかりやすい状況があります。

そのような状況を作り出せれば、選ぶ・選ばれるの関係性は対等な関係に近づいていくばかりではなく、会社もその人を転職させまいと、より処遇を良くしてくる場合もあります。

つまり、先が見えずらい雇用環境において、「安定」したキャリアを歩むためには組織に「依存」する思考ではなく、「責任」をいかに果たしていくかの思考にフォーカスすることが肝であり、自分が望むキャリアを築くことには最も有効であることが考えられます。

高度経済成長期は企業は家族で経営者が親、従業員が子どもたちといったような考え方が多くの企業でありました。ただ、それを支えてきた「右肩上がりの経済成長」という前提がなくなった今はその組織の構造を維持できなくなっています。景気が悪化していくにつれて、企業はその「家族」に対して家族関係の解消をすることで企業の存続を図っていきました。

自身の報酬に見合った業績を上げることができない人を雇い続けることは経営上難しい中、様々な企業は新卒大量採用重視から中途採用にて即戦力採用を活性化させる必要に迫られています。

その中で「責任をしっかり果たす人」は様々な企業で求められ、企業間で取り合い合戦とも言えるような市況となっています。当然ながら、企業はその候補者を得るためにより良いパートナー級の扱いをしてくる時代と言えます。

自分自身を助けるものとは

企業に会社員として属し、経営者としても働いてきて、また多くの人の採用や企業人事に携わる中で、人が働く上での財産として考えるのもが大きく2種類であることがわかりました。

①今までの肩書きや年収、知名度などの「地位・お金・名誉」
生きていく中での変化していく一時的なもので他人が与えるもの(目に見える・簡単に奪える)

②自身と向き合いながら変化して身に着けた問題解決の力や経緯の中で身に着けたスキルや考え方などの「人格・能力・スキル」
一生もので自分で努力して手に入れられるもの(目に見えない・奪うことはできない)

①は「一時的で奪えるもの」、②は「変化の中で上げ続けることができる奪えないもの」になります。

今の時代、会社員になったとしても、安定するとは言い難い時代となりました。一方で賢い若者の中には選択の自由度を察知し、起業する起業家もいます。時流に乗ることができれば若くして多くの経済的な資産を築くことも可能な時代となりました。

仕事がら20代の起業家の支援をする機会もありますが、その中で気になるのが若くして①にしがみついてしまい②を蔑ろにしてしまう人がいることです。(若者だけではなく40代以降のシニアもしかり)

②に人生の多くの時間を投資をすることは一見遠回りで、「損」なようにも見えるかもしれません。また、要領が悪く、気が遠くなるような努力を要し、即効性のある結果は見えずらいものになります。また、外部環境の変化も激しいため、不安や心配もつきません。

しかし、時代が変化する中で安定して発展していくためには②にフォーカスして自分自身を作っていくことが最も重要だと考えています。また、時間をかけて作り上げてきた②は簡単には崩すことができない強固なキャリアの基盤となります。

変化が激しく、先が見えづらい時代だからこそ、変化に翻弄されるのではなく、信念を持ち②の財産・基盤を力強く作っていくことが最もその人の個性を活かし・価値を増幅させることだと考えています。

様々なビジネスパーソンを見てきた結果、②を重視し「責任を果たせる」自分づくりをした人は、会社員や経営者など立場は違えど、市場から必要とされ続ける人材となることは確かなことだと考えます。