部下や後輩の不満にどう対処する?〜道理の共有と個人の自立を考える〜(前編)

部下や後輩の不満にどう対処する?〜道理の共有と個人の自立を考える〜(前編)

はじめに

職場の先輩となりリーダーとなると、「部下や後輩たちは一体自分をどう評価しているのか」、多少なりとも気になるものではないでしょうか。もし後輩や部下が不満を抱いているなら可能な限り解消してあげて、より良い対人関係を築いていきたいと考える方も多くいることでしょう。

今回は、部下や後輩が抱く不満にどう対処していくべきかについて、「道理の共有」と「個人の自立」という2つの観点から考察していきたいと思います。

若者たちが考える「理不尽」

先日、この春新卒で大手メーカーの子会社に就職した女性Aさんから、「仕事が辛い。理不尽な上司がいる会社に就職してしまった」という悩みを打ち明けられました。

具体的にどんなことが辛いのか話を聞いてみたところ、
「具体的に何をすればいいのかよく分からない」
「仕事をするために必要なスキルをいつまでにどうやって身につければよいか、教えてもらえなくて困っている」
「上司が『分からないことがあったらいつでも相談して』っていう理不尽なことを言ってくるんですよ。」
などと話してくれました。

私はその話を聞いて、すぐにはAさんが何を理不尽だと言っているのか理解できなかったのですが、対話を続けるうちに「マニュアルがない」「研修がない」「上司が質問しないと仕事を教えてくれない」などが、Aさんが言うところの理不尽だと分かるようになりました。

Aさんとしてはガイドラインやマニュアルもない中で、手探りで仕事を進めていかなければならないことが辛く、そのような境遇に置かれた自分は”理不尽な目に遭っている”と感じていたのでした。

もちろん若者全員がAさんのような考え方をする訳ではありませんが、特に今の20代がこのような悩みを抱える傾向にあるようです。皆さんの周りはいかがでしょうか。

道理への誤解と無知が不満を生む

さて、「理不尽」とは一体何でしょうか。

改めて辞書で確認してみると理不尽とは「道理に合わないこと」とあります。つまり、「仕事とはこういうもの」「上司とはこういう存在」という誰もが認める共通認識、原則のようなものが道理だと言えます。

例えば、「仕事とはスキル、時間、労働力を提供する代わりに、金銭を得ること」とか、「上司は部下に仕事を与えて、成果を確認し評価する存在」など、言葉にせずとも皆が分かっている認識、原則が道理だと言えるでしょう。

Aさんのケースを考えてみると、「仕事とは大学受験や資格取得をする時のように上司や先輩が事前に教えてくれて行なうもの」という思いや期待があり、上司が学校や予備校の先生のように懇切丁寧に教えてくれないことに対して理不尽を感じたと予想されます。

しかし、変化の激しいビジネス環境の中でマニュアルが整備されている職場はごく僅かであり、現代社会に生きる私たちにとっては「自分の立場と権限の範囲内で自ら判断して進めるべきもの」が仕事の道理だと言えます。つまり、このことに関してはAさんの方が「仕事とはこういうもの」という道理に対して誤解があり無知だったことが、不満の原因だったと考えられます。

実は、このような働く人の道理への誤解や無知が、職場や上司に対する不満に繋がっていることが少なくありません。

仮に、Aさんのような考え方をする人が部下になった場合、上司がどんなに有能で人格的であったとしても、ほぼ確実に不満を持たれるようになります。上司がいかに良識的に接し優しい言葉で部下を指導しても、感謝されるどころか「理不尽だ」と切り捨てられ陰で不平不満を言われてしまう。

このような目に遭うなら、むしろ上司の方が理不尽を感じても不思議ではありません。さらにそういう部下が1、2人ならまだしも、大多数となってしまった場合、上司を続けるモチベーションの維持さえ難しくなってもおかしくはないでしょう。

不満の原因は概ね3種類

ここで、職場生活を送る方々が抱く不満の原因を考えてみましょう。私がコンサルタントとして接点を持つ企業の方々が抱いている不満の原因を分析してみると、大きく次の3つに分類することができます。

①上司の人格や言動に問題がある。(組織が機能していない)
②組織に属する人が道理を分かっていない
③組織に属する人が精神的に自立していない

①は上司、組織側に原因がある不満です。例えば、上司が「人によって態度を変える」「公平でない」「気分次第で行動する」「指示がコロコロ変わる」「高圧的・威圧的」・・・などが挙げられます。

また頑張っても評価されない、何故か他の人の仕事が回ってくる、残業しないと終わらない仕事を割り当てられるなど、組織運営のやり方に問題がある場合も部下たちの多くが不満を抱いてしまいます。

確かに、上司や先輩の立場からするとこういった話は耳が痛いですが、一方で①に該当する不満は、原因が上司側・組織側にあることから改善が可能だという点で、良い不満とも考えることができます。①に関しては、積極的に直し改善する姿勢を持つことが大切です。

②は、部下や後輩に側に原因がある不満です。先述のAさんのように、そもそも仕事とはどんなものか、上司とはどんな存在かという理解と認識が道理から外れてしまっているため、道理に基づいて仕事を進める人たちに対して不満を抱いてしまうのです。

このような現象が起こるのは、Aさんを含む若者たちに問題があるというよりは、少子化によって学生をお客様待遇してしまう大学などの教育機関のあり方、個人の「やりたいこと」を過剰に重要視するキャリア教育、また成績を伸ばすことを優先し社会性を育む訓練が不足しがちな家庭教育などの影響を、断続的に受けてきた結果とも考えられます。

では、上司・先輩として、②に該当する不満に対処するためには、どうしたら良いでしょうか。それは「仕事とはこういうもの」「上司の役割はこうだ」「部下に期待される姿勢はこのようなものだ」という道理を、社内や部内、課内で可能な限り言葉にして伝え合うことで共通認識を形成することです。これが面倒ではあっても最短にして確実な道だと言えます。

例えば、Aさんに対しては上司から「個々の顧客にとって課題が異なるから、うちの課の業務をマニュアル化することは難しい。自分の頭で考えて行なうしかない。大変かもしれないけど、そのような仕事を任せられる人材としてあなたが採用されたし、この課に配属になったと思うよ。」などと話す。先輩からは「上司は忙しいから、質問をする時は1度で済むようにメモを持参しようね」と言ってもらう。また「相談できる人がいて良かったね」と言ってもらう、などが挙げられます。

こういった言葉がけの繰り返しによって、少なくとも「この会社の仕事はこういうものだ」「上司はこういう存在だ」と理解できるようになり、自分は理不尽な目に遭っているわけではなかったと気付くようになります。上司・先輩としては「そんなことは常識では?」と言いたくなる気持ちを抑えて、粘り強く伝え続けることが大切です。

これまで日本企業の多くがこういった共通認識を、”空気”によって形成してきました。空気とは非言語的なコミュニケーションである波長を通して感情を伝播させることで、例えば舌打ちしてみたり、目を合わせないようにしたり、返事をしないなどの言動を通して、「自分は快く思っていない」などという雰囲気を作り出し、相手を感情的に支配するものです。

例えば、Aさんのような部下が何をしてよいか分からず手をこまねいているのに対して、睨んだり、ため息をついたりして冷たい空気を作り出しても、部下を萎縮させるだけで認識の転換には効果がありません。

部下が抱える不満を取り除くためには、こういった道理の部分にまで踏み込んだ会話、言葉がけを続けることが大切なのです。

 

《参考》職場の空気∼空気の支配から組織を変えるためには∼

(後編は8/11投稿予定です)