目指すキャリアをどうつかむ?~海外外駐在員が語るやりがいとビジョン~<後編>

目指すキャリアをどうつかむ?~海外外駐在員が語るやりがいとビジョン~<後編>

「一流ナビ」は、各界で活躍するビジネスパーソンのマインドに焦点を当て、「日頃どんな考えや精神で仕事に取り組んでいるのか」をお聞きするインタビューシリーズです。

リーダーシップドック 一流ナビ

20代で日本の優良企業の韓国駐在員に抜擢され、プロセスエンジニア※として活躍中のSeiさん。前編では、大学時代にサークル活動やルームシェアをする中で、自分の基礎が形成された話をお聞きしました。後編では、就職活動、新社会人時代、そして今に至るまでの経緯と、良い人間関係を築くコツや、困難の乗り越え方、仕事へのマインドなど、社会人生活で培ったノウハウやスキルについてお話しいただきます。

※プロセスエンジニア:お客様が求める製品を作るための製造方法を開発・評価するエンジニア


専門課程ではなく、韓国留学時代の関心事から、第1志望の会社を選定

就職活動の時のお話を聞かせてください。

地元が福岡で大学も九州、親の体調も少し心配だったこともあり九州で働きたいとは思っていました。大学の研究では医療生体工学という(現職で扱う)半導体とは全く関係のない筋肉と脳の相関関係を研究していましたが、大学3年次に3ヶ月くらい韓国に留学をする機会がありました。当時2012年はちょうどスマホやタブレットが普及し始める時期。そこで、デジタル製品の核である半導体に興味を持つようになりました。最初はいろいろな会社を見ていましたが、知り合いの先輩が3人勤めており、話を聞いているうちに惹かれていったのが今勤めている半導体メーカーです。

どのようなところに惹かれていったのですか?

一言で言えば、九州にいながら世界を相手にモノづくりができるところです。

半導体とは、電気を良く通す金属の「導体」と、通さないゴムなどの「絶縁体」の中間の性質を持つ物質や材料です。代表されるものが「シリコン」で、パソコン、スマートフォンなどのデジタル製品をはじめ、自動車や社会インフラの制御など、私たちの生活の至る所で使われています。日本は世界的に見ても半導体の関連産業が活発なため、世界を相手に戦える会社であると思い、志望しました。

韓国駐在は逆境からのスタート、変化を楽しむことで乗り越える

韓国駐在員に抜擢された経験をお持ちですが、韓国語はどうやって学んだのですか?

大学時代の3ヶ月の留学経験とは別にNHKの韓国語講座や語学学校に通ったりしていましたが、ビジネスレベルではありませんでした。お客様の言っていることは何とか分かりましたが、それに答えるための韓国語ができない状態で、会議に出ても意思疎通ができず全く仕事になりませんでした。。

また、渡韓当初は人が足りておらず、現地法人の上司に「誰か1人サポートをお願いしたい」とお願いしたところ、日本語がおぼつかない韓国人の新入社員がサポートを担当してくれることに…。

コミュニケーションには本当に苦労しました。

「これはまずい!」と思い、自分を追い込むため、毎週2時間ほど1対1のレッスンを1年間続けることで、韓国語を習得していきました。

心が折れそうな状況ですね。どうやって乗り越えたのですか?

レッスンを受けながら「眠たいな」と思ったことはありましたが(笑)、「辛いな、辞めたいな」とは思いませんでした。語学は好きな方でしたし、新しいことを学ぶのは純粋に楽しかったです。

2021年の9月に会社で受けた自己分析の結果では、ストレス耐性と環境受容が高く、変化の多いところを好む傾向でしたので、元から大変な状況を割と楽しめるタイプなのだと思います。

自分の性格を理解して選んだ「プロセスエンジニア」の道

プロセスエンジニアの仕事について教えてください。

エンジニアと聞くと、部屋に籠って1人で黙々と研究や開発をする人のイメージが強いと思います。しかし、プロセスエンジニアは多様な人々とのコミュニケ―ションの上に成り立つ職業です。

企業としては、開発段階からお客様と一緒に仕事を進めていけるかどうかが、勝負になりますから、開発自らフロントラインに立ってお客様の要望を聞く機会も多くあります。また、それを実現するための社内会議や、開発段階での打ち合わせや調整もあり、日々多くの人と関わりながら仕事をしています。

私は、変化することを好みますし、お客様とのコミュニケーションにやりがいを感じるタイプ。だから、お客様と会社との橋渡しをするプロセスエンジニアの仕事は性格に合っています。

自分がどのような人間かが分かって、その道に進んでいるのですね。

そうですね。実は今の会社の採用面接も、それを考えて最終面接で志望職種を変えています。大学の情報電子工学科でプログラミングやソフトウェアの開発を学んでいたため、二次面接まではソフト開発方面を志望していました。しかし、客先に出ることもなく、プログラミングを黙々とする仕事環境は、自分には合わないのではないかと思い、最終面接で今のような働き方ができるプロセスエンジニアへの志望に切り替えたのです。急な変更でしたが、結果的に採用もされ、働き出してからも自分の性分を活かせているので良かったと思っています。

社会人になって養われた「思考力」と「慎重性」

新人時代から今までの大きな変化は何がありますか?

社会人になってからは、慎重性と思考力が鍛えられたと思っています。学生時代は勢いだけで進めていましたが、会社に入るとそれでは通用しませんでした。仮説を立てて実行し、その結果から「なぜそうなったのか」を分析して評価、そこから改善してまた仮説を立てて…といわゆるPDCAサイクルで開発や評価をしながら、技術者としての足りなさを自覚するようになりました。

評価の仕事では、パラメーターの確認に繊細に気を遣う工程があり、初めは苦手でしたが、繰り返すうちに鍛えられてできるようになりました。細かい連絡ミスや、メールでのミスなど、慎重性を欠いたことで起こった失敗談も多く、むしろ失敗があったからこそ、慎重性が身についていったとも感じています。今ではメール1通出すにしても、2~3度読み返してから送りますし、添付する資料についても徹底して確認するようになりました。

また、思考力については、先に経験を積んだ先輩方と仕事をすることで磨かれていきました。1つの結果に対し、いくつもの観点からアプローチする力、物事を表面的にだけ捉えず深く考えていく力は、エンジニア集団の中にいたからこそ養われた思考力だと思います。

良い人間関係を築くことの大切さ

理不尽な目にあったり、人間関係が悪くなってしまったことはありますか?

先輩の確認ミスで、情報解禁前の資料を一斉送信してしまい、上司にひどく怒られたことがあります。「先輩のせいなのに、何で自分が?」と理不尽に思い、つい反発してしまったのですが、そこから上司との関係性が悪化しました。明らかに以前とは違う対応をされるようになり、困って第三者的な先輩に相談したら、「反発したのは悪手だった」と指摘を受けました。「仕事は、人と一緒になってする以上、お互いを信頼し、良い関係を築いておくことが大事だ。素直にミスを認め、『ごめんなさい』と一言謝った方が良い。」とアドバイスをもらいその通りにしたところ、時間はかかりましたが再び信頼関係ができ、関係を回復することができました。

結局その上司の後押しで韓国に駐在に行けるようになったので、あの時に頑張って対話をして良かったと思っています。また、渡韓前に、あまり関わりのなかった人から「誠実な仕事をする人だとよく聞いています。韓国でも頑張ってください」と応援メールが来ました。上司が私の仕事ぶりを周りに話していたようで、それを聞いての連絡をくださったそうです。人間関係で摩擦を生まず、信頼関係を築いておくことの大切さを感じた出来事でした。

私は、人と話す際には自己開示を積極的にすることを心掛けています。自分がどういう性格なのか、何を考えているのか、失敗談なども交えながら明るく話していくと、相手の心のハードルが下がります。また、話しやすい人になるためには、笑顔も大切です。

新しい環境と新しい出会いが、自分を創る

どのようにして、「海外駐在員になる」という目標を達成していきましたか?

大谷翔平さんが高校1年生の時に作成した目標達成シートをご存知でしょうか?9✕9の表の真ん中に自分が成し遂げたい目標を最初に書き、次にその周りに8つそのために必要なことを書き出します。そして、さらにまた8つ、そのために必要なことを書き、最終的に表に全部言葉を入れて完成させます。入社してすぐ、「30歳までに、海外駐在レベルのエンジニア」という目標を真ん中にし、目標達成シートを作成しました。目標と、それに向かってやるべきことが明確になりましたし、自分がどこまで目標に向かって進んでいるのかを確かめる指標となりました。

自分を成長させていくコツはありますか?

自分を客観視することです。渡韓してすぐ、会社から事前に提示されていた役割やビジョンと、実際の現場で期待されていることにギャップを感じるようになりました。そこで、関わりのある人たちに、駐在エンジニアに期待することや、私のことをどう感じているのかのヒアリングを実施しました。その対話がきっかけとなり、自分を客観視して見るようになりました。人の目を通して見える自分を捉え、フィードバックを受け入れ、自分を作っていく意識が生まれたのもこの頃です。

その後、「人生一生を懸けて、自分1人を作っていくことだ」という言葉を聞くようになりました。今では「仕事のために自分が存在するのではなく、自分を作るために、今の仕事も自分も存在している」と考えています。

振り返ってみると、人生の節目節目に新しい環境との出会いがありました。その中で起こる様々な出来事を通して、自分を作ってきたと感じています。未来に起こる出来事も、自分作りのきっかけになると思うと今から楽しみです。

リーダーシップドックの読者の皆さんへのメッセージ

グローバルに活躍したいと考えている人は、ぜひコミュニケーション力や、主体的に物事を進めていく力を養ってください。学生でも今から意識すれば鍛えていける力です。

主体性を伸ばすには、成長意識が必要です。何かをしたい思いがあれば、自ら自然と動き出すのではないでしょうか。一から自分で作るのではなく、人を見て良いと思ったことを真似することから始めるのも良い方法です。

自分を作るのは自分です。チャレンジしたいことがあれば、思い切ってやってみてください!また次に進むべき道が拓けていくと思います。

《参考》目指すキャリアをどうつかむ?∼海外外駐在員が語るやりがいとビジョン∼<前編>