第一週 元DeNAプロデューサーが送るコンテンツ業界の”コロナ後”
- 2020.05.04
- 組織運営
- #コロナ後のワーキングスタイル, #マネジメントをオープンに, #自分にしかできない仕事
5 月特別企画「コロナ後の世界」
5月は今私たちが直面している最も大きな問題である「コロナ後の世界」について専門家の方々に特別寄稿をお願いしました。第一週目の投稿はゲーム・Web等のコンテンツビジネスの敏腕プロデューサー/ディレクターK氏による「コンテンツ業界のコロナ後」についてです。
はじめに
はじめまして!ゲーム・Webをメインにコンテンツビジネスの仕事をしているKと申します。
20年ほど前に、プログラマーとしてキャリアをスタート、その後DeNAなどでプロデューサー・ディレクターの仕事をしています。最近では子供のプログラミング教育に興味があり、ゲーム作りを通したプログラミング講座などをやったりしています。
今回はデジタルコンテンツを扱う立場で、コロナ以降のコンテンツ業界の今後とワーキングスタイルの変化を予想してみたいと思います。
1.コンテンツへの接し方の変化~”Connected”(共感)へ
物理メディア所有からストリーミングサービスへの変化
皆さんは普段どのようなコンテンツ(ここでは映画、音楽、ゲーム、書籍などを指しています)に、どのような形で触れられていますか?
私が子供の頃は、音楽はレコード(その後CD)、映画は映画館かビデオテープ、ゲームは専用カセットという物理メディアを所有し、コンテンツを楽しんでいました。
その後インターネットの普及に合わせて、不正コピーなどの問題を抱えながらも物理的なメディアから、コンテンツのデジタルデータをダウンロードするスタイルに変化していきました。音楽であればCDからMP3などのデジタルデータへ、漫画であれば紙のコミックスから電子コミックへ、動画であればDVDなどからネット動画配信へとシフトし、ビジネス規模も物理メディアを凌駕するようになってきています。
さらに、このコロナ自粛期間中、ストリーミング・サブスクリプション(料金を支払うことで提供される多数のコンテンツを自由に利用できるサービス)の利用が急増しています。
自宅に籠っている間に、Netflix(定額動画配信サービス)やLINE MUSIC、マンガ読み放題などのサブスクリプション型サービスで、コンテンツを楽しむようになった方も多いのではないでしょうか?アメリカでは既にストリーミング・サブスクリプションが音楽市場の半分以上を占めるようになっており、コロナ発生後、Netflixの新規加入者数が予想の倍以上の成長と遂げるなど、今後世界中にその傾向が広がると思われます。
所有から共有・共感へ
そんな流れの中、物理メディア(パッケージ)からデジタルダウンロードへの変化が一番遅れていたのがゲームでした。
しかし、現在のコロナウィルスでの自粛期間中に実は大きな変化が起こっています。
3月20日に発売された、Nintendo Switch『あつまれ どうぶつの森』が、世界的な外出自粛期間中にもフレンドと繋がることができるゲーム性もあり、爆発的なヒットを記録しています。本来はダウンロード販売比率が低いNintendo Switchのタイトルでありながら、初期の品薄と実店舗へ行きづらい状況もあり、ダウンロード版の購入が相当な割合を占めていると考えられています。
ここで注目したいのは、パッケージからダウンロードへの移行でなく、体験の共有・共感をコンテンツの一部としてユーザーが楽しんでいることです。
筆者の周辺でよく見られるのが、ストリーミング・サブスクリプションを使用し、自分の好きなコンテンツをリストにしてSNSなどを通じて共有していく動きです。
また、感染防止のために無観客で行なわれるスポーツ中継などで、好プレーには視聴者から「投げ銭」(課金)で応援するという新たなスタイルも生み出されようとしています。
これはコロナ期間中に分断された社会的な繋がりを取り戻したいという欲求から来ているのでは?と思われます。
文化芸術で健康管理!
そして、これは私の願いでもありますが、文化芸術をただ楽しむだけではなく、健康管理にも向いているという側面が、コロナを機によりスポットライトを浴びるようになってきていると感じます。
先に例を出したNintendo Switchでは、自宅でフィットネスが簡単に楽しくできる『リングフィット アドベンチャー』を体験したユーザーが成果をSNSで成果を共有することでさらに人気が出て、今も品薄状態が続いています。
今後も同じように、健康や実生活を豊かにするようなコンテンツの登場を期待しています。
2.コンテンツ業界のワーキングスタイルの変化について
さて、ここからは今コンテンツ業界で見られるワーキングスタイルの変化についてお話ししたいと思います。
元々多くのコンテンツがデジタル化していること、クリエイティブな部分などを外部パートナーに依頼する傾向もあり、この業界は比較的早く在宅勤務に移行できていたと思います。私のオフィスも多国籍メンバーが在籍していたこともあり、会社と相談し、3月末より在宅勤務をスタートしました。
業種によっては、会社にある専用機材を使用しなければいけないなどの制限がある仕事もありますが、クラウドやVPN(社内ネットワークに外部から安全に接続できる仕組み)を活用し、解決できるようになっている部分も多くあります。
その中で私自身マネジメントをする立場として、今までとは違う方法で取り組まなければいけないことも出てきました。
よりオープンなマネジメントスタイル
1つのオフィスに全員が出社していた時に比べ、なかなか所属メンバーの作業状況が把握しづらいと感じるようになりました。今までは同じ空間にいることで肌感覚的に作業量が適切か?などを把握していたのですが、それができなくなり、むしろ「〇〇はしっかり仕事に取り組んでいるのだろうか?」といった考えが頭をもたげ、より報告・確認を強化し、マイクロマネジメントに向かいそうになりました。
しかし、そうすることでメンバーの自主的なモチベーションを奪い、本来はやる必要のない「報告のための仕事」を増やしてしまっていることが見えてきました。
そこで方向を転換し、以下のように行ってみました。
-各自に任された業務の中でその日に取り組むことは本人が決定する
-全チームメンバーが参加する毎日の朝会(Zoomを活用)で、各自が決めたことをコミット、前日の簡単な振り返りを報告
すると、今までは受け身になりがちだったメンバーが積極的に課題を見つけて発表するようになるなど、予想していなかった収穫を得るようになりました。
ここで大事だと感じたのは、今までのように個VS個で行うマネジメントでなく、課題も成果も評価もできる限りオープンにすることでメンバーのモチベーションアップ、公平感を醸造することです。
逆に各メンバーにはマネジメント的俯瞰した観点で日々の仕事に取り組んでもらいたいと思うようになりました。
「替えの効きにくい仕事」へのシフト
コンテンツ制作は人数×時間で成果物を計算することが不可能な側面もあり、今後より一層プロジェクト単位、副業・複数職、クラウド的な働き方が中心になってくるでしょう。
また、コンテンツ制作現場ではコロナ以前からの傾向ですが、「替えの効きにくい仕事」ができる自分を作ることが、これまで以上に求められるようになっていきます。
従来のような安定した仕事環境が得られなくなる半面、今まで能力はあるが会社内でのコミュニケーションに問題があって力を発揮できなかったような人にも活躍の場が与えられていくと思います。
まとめ
- コンテンツの楽しみ方が、物理所有からデータダウンロードへ、データダウンロードからストリーミング・サブスクリプションへの変化が加速する。
- コロナによる分断から回復するため、従来の一方向メディア消費から体験を共有・共感型のメディアが使われる。
- コロナ後のマネジメントは、積極的に情報をオープンにし、メンバーの自主性モチベーションアップを目指す。
- コンテンツ業界では特に「替えの効きにくい仕事」ができる自分を作ることが重要になってくる。
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