事業インキュベータが教える「AI時代に日本人が持つべきマインド」とは?
- 2020.12.10
- Vol 2 目的意識と効果性 シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」
- #AIと競合しないこと, #AIは道具, #目的のためにAIを使いこなす
Vol 2 目的意識と効果性
シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」。第2のテーマは「目的意識と効果性」です。先行き不透明な時代(VUCA時代)においては、働き方がますます多様になることが予想され、今まで以上に働く人個々人の目的意識が重要視されるようになります。そしてその目的意識は、個人が社会やコミュニティにもたらし得る有益と効果へのコミット(決意)と切っても切れない関係があります。
はじめに
私は大手電機メーカーで15年以上AI・ロボティクス分野に携わってきました。現在は最先端技術を使ったビジネス創出や新規事業を開拓する「インキュベータ」として仕事をしています。
今回は、AIが今後ますます発展していくこの時代にあって、日本人がどんなマインドでAIと向き合うべきか、私の考えをお伝えしたいと思います。
自動化、効率化が求めらる日本という国
まず日本を取り巻く状況を確認します。
日本において世界に先駆け起こっていることの1つが、高齢化による人口減少です。
日本の人口は2004年12月にピークの1億2700万人になりました。内閣府の発表資料にある、今後の人口予測によると、2030年には1億1500万人(1割減)となり、2050年には1億人を切り、9500万人になると予想されています。高齢化率は40%です。生産年齢人口は約50%です。1945年終戦時の人口は7200万人でしたので、日本は100年間で人口の劇的増加と劇的減少を経験したことになります。
従って、日本が経済成長を遂げた後の競争力や生産性を維持するためには、人口の劇的減少に処することが不可欠であり、この圧倒的な人手不足を補うための「自動化」「効率化」への取り組みは、日本にとって死活問題だと言っても過言ではありません。
進化するAI
その「自動化」「効率化」の切り札として注目されているのが、AI(人工知能)です。読者の皆さんもよくご存じの通りです。
ここで、最近のAIの進化について興味深い例を2つご紹介しましょう。
2020年7月、くら寿司は寿司ネタに使用するマグロの仕入れに使うためのマグロのランク付け作業をAIに行なわせる実証を始めました。結果、マグロの等級のAランク(最上級)、Bランク(上級)、Mランク(並品)を90%の精度で判別することができているそうです。
また、最近バージョンアップした「GPT-3」という文章生成AIはアメリカの掲示板サイトで自動生成した文章で人間に「なりすます」実験をしたのですが、1週間もの間、読者に気付かれることはなかったそうです。
もはやAIは、人間に替わってマグロの仕入れや文章作成まできちんとこなすようになりました。
数年前「今後10年から20年の間に、約47%の業種がAIやロボットで代替可能となる」と試算した英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン教授の論文は、当時大きな話題となりましたが、
今や、AIが人間の職業にとって替わることは当たり前のように世間に認知され、今後もAIの領域が広がっていくことが予想され期待もされている状況だと言えるでしょう。
AIは万能ではない
このような流れの中で、AIで代替可能なことと、AIで代替不可で人間でなければできないことについての議論も活発に行なわれていますが、その1つに医療分野が挙げられます。
「いずれ医師の仕事はAIに取って代わられるようになる」と主張する識者も少なくありません。診断に関するビッグデータをAIに蓄積すれば、症状や問診情報に従って病気を診断し処方も確定されるので医師の診察が不要になると言われています。確かに病気の診察という一局面だけを考えれば、AIが平均的な医師の能力と同じかそれ以上のパフォーマンスを発揮することもありうるかもしれません。
しかし、医師の仕事は診察だけではなく、治癒・寛解させなければなりませんし、再発防止に向けて生活習慣を指導したり、継続的にリハビリをし、薬を飲むように励ましたりすることも含まれることを忘れてはならないでしょう。
つまり、データによって処理できる仕事はAIによって自動化・効率化できますが、医師の仕事の目的が”患者が健康を取り戻すこと”にあると考えると、そのプロセスを共にできるのは現状では人間だと言えます。AIは限りない可能性を秘めていますが万能ではありませんし、自動化・効率化を追求するあまり医療の目的が成しえなかったらAIの存在価値がないのです。
AIはツールであり「自動化」「効率化」は手段である
ここで留意すべきなのは、AIは単なるツールに過ぎないということです。ツールである以上、目的のために活用されるものでしかありません。前述の例では、診察はAIで自動化・効率化ができるかもしれませんが、”患者が健康を取り戻すこと”という目的を完遂するのは人間だけだったように、AIという便利なツールを使って目的を達成するのはあくまで人間だということです。
「自動化」「効率化」は日本の重要な課題ではありますがそれ自体が様々な産業の目的にはなりえません。あくまで日本の少子高齢化時代に処する有力手段と考えるべきでしょう。
使われる側から、使う側へ
AIの台頭に伴って、「将来、失業するのではないか?」とか「どうやってキャリアアップしていけばよいのか?」という不安心配の声が世間のあちこちで聞かれるようになりました。
しかし、私たちにとって大切なのは、「AIによって自分の仕事が減り追いやられてしまう・・・」「今後何を職業として選べばいいのか?」というAIと競合するような発想ではなく、「AIという優れたツールを使いこなし社会の諸問題をどのように解決できるか?」という発想を持つことだと思います。
私もこの分野で仕事をしながら、AIの素晴らしさやAIの可能性に気付きつつも、各産業で起こっている諸問題とAIでできることを結び付けられる人材が不足していることを痛感しています。
道具は考え次第、使い方次第で多くの利益をもたらし願いを叶えてくれるものですが、批判を恐れずに言葉にすると、人間がAIを使いこなす段階に至っていないケースが多いように感じます。
AIというツールを使いこなすためには、AIでできることへの関心と理解はもちろんのこと、AIを活用することで組織や個人の目的をよりよく達成し得ることに着眼できなければなりません。
今は、AIを使いこなす当事者であるべき人間、私たち自身の考えを昇華させ、発展させていくことが大切だと思います。
<参考資料>
・「将来推計人口でみる50年後の日本」(内閣府刊「高齢者白書」より)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/zenbun/s1_1_1_02.html#:~:text=我が国の総人口は,1-1-3)
・「ICTの進化によるこれからのしごと」(総務省刊「情報通信白書」より)
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd145210.html
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