教育のプロが教える「脳が学習する状態」の作り方
Vol 4 「観」の是正と置き換え
シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」の第4のテーマは、「観」の是正と置き換えです。「観」とは私たちが現実を認識するフィルターのようなものです。私たちが自分の観をどう認識しどう管理する必要があるか、数回に亘ってお伝えします。
はじめに
教育の現場で生徒と接していると、生徒は今までの経験を通して自分なりの「勉強観」というものを持っているのを感じます。自分の勉強観の通りに勉強してしまうことで、本来得られるべき学習効果が得られていないことが頻繁にあります。
生徒が持つ勉強観について詳しく話を聞いてみれば、少し観を是正するだけで、改善できるケースも多いです。
今回は、学んだことの「復習」に関して、観が間違っていることで学習効果が落ちてしまっていた事例について紹介していきます。
復習が億劫になる事例
パターンA
復習をする際に、「学んだことを忘れないように短い間隔で復習しよう」と考える生徒がいます。
覚えたばかりで復習しても、できて当然だと感じてしまい、脳が情報に対する興味を失ってしまい、学習しなくなります。また、すぐに復習すると、できて当然なのですが、自分はできると錯覚して、復習する必要性を感じなくなります。さらに、できない自分を確認したくない気持ちになり、結局復習をしなくなってしまいます。
パターンB
次のパターンは、「今はまだ覚えているから、期間を空けてから復習しよう」と感じる生徒がいます。
期間を置いて復習したら、ほとんど忘れていることに気付きます。すると、自分はダメだ、能力がない、と感じてしまい、落胆してやる気がなくなります。
パターンC
次に、何度か復習するのですが、「自分の力をすべて出し切ったけどダメだった。何度復習しても分からない。分からないままにするのも嫌だなあ…」と感じる生徒がいます。
分からないことにストレスを感じます。さらに、他のことに気持ちを切り替えることに罪悪感が湧きます。そのため、前に進めなくなってしまいます。
このように、生徒が復習する過程には、復習が億劫になる要因が潜んでいます。今回は、以下の2点に絞って考えてみます。
脳が学習する状態をつくること
感情に左右されないこと
脳が学習する状態
脳が最大限学習できる状態になるにはどうしたら良いかについて、脳の仕組みを通して3つのポイントを説明します。
・何度も入ってくる情報は脳が重要だと感じる。
脳はいつも、「嗅内皮質」で脳に入ってくる情報をふるいにかけています。何度も入ってくる情報や、命に関わるような重要な情報は「海馬」で、記憶の形成を始めます。そして、保存する価値があるという信号が発せられた情報が顕在記憶として「新皮質」に保存されます。
・忘却した後に復習する。
脳は、記憶する時に勝手にストーリーを作って記憶と記憶をつ繋げて保管しようとします。そして、余計な情報を忘却していきます。脳内で様々な情報が飛び交っても記憶が整然としているように感じるのは、このためです。記憶は、間違った繋がりを作っている場合や、不十分な情報の状態で保管されているため、復習により、苦労して引き出すことを繰り返しながら、記憶が正しく強固に定着していきます。
・復習により脳は無意識の間に学習するようになる。
忘却して、不完全な記憶をもう一度作り直して、という復習を繰り返している中で、自分が限界まで考えても答えが出ないような問題にぶつかることがあります。しかし、ここまでやり切ることが重要です。すると、脳は無意識の間にも、その問題を解決しようと動き始めます。見ること聞くことの微細な情報からもヒントがないか探すようになります。すると、ある時何かをきっかけに「分かった!」とひらめきが生まれます。
このように、自分が学習したいことについて、回数を重ねながら記憶を正しく形成していき、自分の限界に達してこそ、脳が無意識の間にも学習するようになります。この脳の特徴を復習に活かす必要があります。
感情に左右されない
復習して、できない自分に気付いても、忘れているのは悪いことではありません!落胆、心配、妬み、、、こういった感情は意味がありません。脳が学習する最高のチャンスだと認識を変えるべきです。
また、忘れる前に復習するような強度の低い学習をしていると、自分はできる、という錯覚に囚われてしまいます。復習もしなくなり、脳も学習しません。
一度忘れてから復習するというのは、非常に根気がいる作業です。しかし、ここが脳が学習する状態を作るために乗り越えるべき壁だと思います。問題解決のアイディアをすべて出し切ったけどダメだった、というところまでやり切ったら、罪悪感を捨てて脇に置いておきましょう。他のことを進めている間に脳がひらめきを生み出す可能性が高いです。
まとめ
このように、復習1つをとっても、脳の仕組みを理解して、観を是正していくことで、結果が大きく変わることがあります。
今回は、教育現場で感じる観に関する事例をお伝えしましたが、学校を卒業している社会人であってもこの考え方は重要です。
間違った観を見つけて、改善するにはどうしたら良いか、ぜひ皆さんも一度じっくり考えてみてください。
【参考文献】
『脳が認める勉強法――「学習の科学」が明かす驚きの真実!』,ベネディクト・キャリー 著,花塚 恵 訳 (ダイヤモンド社)
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