一流のビジネスパーソンが持つ「コスト意識」とは
はじめに
先日、ある企業の営業部門のマネジャーから、「うちの部の営業担当者たちは総じてコスト意識が低く、時間やお金の使い方に無駄が多くて困っている。」という話をお聞きました。
例えば、ウェブで閲覧可能な資料をわざわざ見込み客にプリントアウトして送付したり、受注の見込みが低い客に向けて熱心にノベルティ配布を行なったりしている様子を見て、折を見ては”業務の無駄”を省く必要性を度々伝えているものの、なかなか改善されないとのことでした。
むしろ「営業活動を自由にやらせてくれない」「そんな細かいことで目くじらを立てるなんて!」等、そのマネジャーが対応に苦慮する不満をぶつけられるそうです。特に、売り手市場の中で就職活動を経験し、あまり苦労をせずに入社した世代にこの傾向が強く見られると。皆さんの職場ではいかがでしょうか?
今回は、ビジネスパーソンが持つべきコスト意識について、掘り下げて考えてみたいと思います。
ビジネスパーソンが持つべき「コスト意識」とは
ビジネスの場で求められる「コスト意識」とは、投資した時間、労力、金銭に見合う対価を得ることを見越していること、採算性を考慮することと考えられます。
先ほどの例の場合、資料のプリントアウトやノベルティの配布という行為自体が良くないという訳ではなく、それらの投資に見合う対価(受注もしくは受注の見込みが上がる等)を見越して行動できているかどうかが重要になってきます。投資に見合う対価を考慮せず、ただ見込み客に気に入られるためにする行為は、個人的には親切かもしれませんがビジネスとしては無駄であり採算が合わない行為です。
企業には利益を追求する目的がある以上、投資以上の回収を目指さなければならないという大前提を、組織に所属する人たち全員がまず理解する必要があります。採算を度外視した諸活動はビジネスとは言えず、自分なりに良かれと思ったとしても評価されることがないからです。
企業にとって人件費が最大のコスト
このコスト意識について論じる際、忘れてはならないのが「人件費が最大のコスト」であるという観点です。つまり、自分が企業に雇われていること自体が企業にとってはコストがかかっていることだと認識することが大切だと言えます。
管理会計上、費用は固定費と変動費に分けることができますが、人件費は利益があってもなくてもかかる固定費に該当します。従って、多くの企業において人件費が損益分岐点(利益と損失がイコールになる点)を押し上げる主要なコストになっています。
この人件費は給与だけではなく、採用、雇用維持によって生じる様々な費用が含まれます。以下は、人材を雇用する際に生じるコスト(雇用に要するコスト)を列挙したものです。
雇用に要するコスト
【初期費用(イニシャルコスト)】
・採用費:求人雑誌や求人サイトへの掲載費用、人材紹介会社への成功報酬等。
・教育費:新しく入社した人材が通常業務を行なうことができるようにするための研修費。研修に使う場所代や、資料代、講師代等。
・準備費:新たに入社した人材のためのデスクやパソコン、電話機、名刺等会社が新し く用意する備品にかかる費用。
【維持費用(ランニングコスト)】
・毎月の基本給:企業が毎月確実に支払う必要のある費用。
・残業代:残業代の割増率は状況によって変わりますが、例えば労働時間が8時間を超えた場合は基本給を時給換算して、その時給に25%増しで支払う。
・福利厚生費:住宅手当等、基本給以外に支払う費用。
・社会保険料:「労災保険」「雇用保険」「厚生年金」「健康保険」の4つをまとめて社会保険と言う。それぞれの保険料は労働者と事業者が分担して負担することになっており、これ以外にも40歳以降に加入する「介護保険」がある。
維持費用には上記以外にも、退職金の積み立て、水道光熱費、その他、資料のための紙類、プリンターのインクなどの細かい備品や消耗品も必要です。これらの費用を合わせると、基本給20万円、ボーナス年2回の正社員の場合、少なく見積もっても年間360万程度の維持費用がかかることになります。
自分が雇用されるに当たっても、初期費用がかかったし維持費用もかかっているということです。
ここで大切になるのは、働く側が上記の「雇用に要するコストに見合った利益を生み出すことができているのか自らを振り返ること」です。
ビジネスパーソンに求められるコスト意識とは、「自分の働きが所属している組織に利益を与えているのか、それとも損失を与えているのか、シビアに自己評価する視点を持つこと」だと言えます。雇用契約は、雇用と就労の経済的価値交換のバランスが取れていてこそ、成り立つものだからです。
コスト意識が高い人ほど謙虚であり話が簡潔
実際、私がお会いするビジネスパーソンの中でも、コスト意識が高い方ほど仕事の生産性が高く、自分の時間も周りの人たちの時間も大切にします。決して遅刻したり長々と話したりしません。人柄も謙虚で感謝の気持ちが強いという共通点があります。
一方、コスト意識が低い方ほど業績が振るわず、周りの人たちの時間を奪うことに躊躇がありません。メモを取らずに何度も同じ質問をする、自分で調べれば分かることを簡単に先輩に聞く、話が長く要領を得ない等の言動は、コスト意識が低いことの表れだと言わざるを得ません。また、所属している会社や部署への不満が多く、転職に勇み足になってしまう傾向も見受けられます。
このように、コスト意識の高低は、仕事のパフォーマンスだけではなく、職場への満足度やコミュニケーションの質まで左右する要因となるのです。
ちなみに、私が営業担当者向けに教育を担当する際は、できるだけ営業担当者1人当たりの雇用コストと損益分岐点(損益分岐売上高)を算出する演習を含めるようにしています。自分がどの程度の営業成績を上げたら自社に貢献したことになるか、分かっているのといないのとでは、仕事に対する取り組み方も実際のパフォーマンスもまるで異なるからです。
もちろん、営業以外の職種の中では成績を数値で測定しづらいものことがありますが、職種を問わず求めらるのが、このコスト意識でしょう。
まとめ
今回はコスト意識について考察してみました。
企業が人材を雇用する際は、必ずその人材から得られる「経済的価値」を期待します。それが言わばその人材を雇用している目的ですので、働く側はまずこの目的を満たすことを目指さなければなりません。
雇用に要するコスト以上の経済的価値を自社に提供できているか、貢献できているのかを客観的に把握し、それを大幅に上回る利益を生み出しているビジネスパーソンは、どの業界、職種であれ、一流と言えるのではないでしょうか。
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