次々に生じる不安にどう対処していくか、VUCA時代を生き抜くための知恵

次々に生じる不安にどう対処していくか、VUCA時代を生き抜くための知恵

はじめに

以前の記事(※1)でも紹介がありましたが、今は「VUCA」時代と呼ばれています。VUCAの頭文字になるVolatility(変動)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(曖昧さ)は、どれも不安定な要素を含むものばかり。意識調査では日本人の7割以上、20~30代の女性の場合、なんと9割近くが何らかの不安を感じているという統計も出ています(※2)。

変化が激しく見通しが悪い今の時代、不安への対処法を知ることで、もっと心が軽くなり、生きやすくなるのではないでしょうか。

※1
VUCA時代、ここに”神経”を使う人が逸材になる
(https://leadershipdock.net/post-1856/)

※2
第9回「日本人の不安に関する意識調査」セコム株式会社
(https://www.secom.co.jp/corporate/release/2020/pdf_DL/nr_20200716.pdf)

不安は危機管理のセンサー

不安とは、現実と未来に対して脅威や焦りを感じたり、問題点を見つけた時に生じる心の反応です。不安が生じた場合、私たちは無意識の内に「そのままでは安全ではない」と考え、状況を確認したり、方向性を変えたり、不安をなくすために働きかけます。

例えば、「約束の日は間違っていないかな。」と思えば約束の相手に確認しますし、「この方法では上手くいかないかも。」と思えば違う方法で物事を進めようとしますよね。

不安は本来、私たちが安全に物事を運べるように備わっている危機管理のセンサーなのです。

しかし、不安がその危機管理センサー以上のものになってしまうことが問題です。

不安への対処法3選

ここでは、不安の特徴とそれに対する3つの対処方法をお伝えします。

1)不安は想像で膨らむ~大きくなる前に断ち切る

不安は考えれば考えるほど増大し、「~かもしれない」と具体的に想像すると、それがだんだん真実のように思えてきます。

例えば、職場で何かミスをした場合、「上司は私のことをできない奴だと思っているのではないか」と考えると、「いらない人扱いされてしまうのではないか」→「クビになってしまうのではないか」とどんどん悪い方に自動的に連想し、起こってもいない未来への心配をするようになります。

自分のミスは客観的に分析し、次にミスをしないように対策を練れば大丈夫です。そして、上司が自分をどう思っているのかは本人から直接聞かないと分かりません。

小さな不安が大きな不安になる前に自動思考を断ち切り、客観的に捉え直すことで不安を打ち消すことができます。

2)不安は伝染する~セカンドハンド・ストレスに注意!〜

緊張している人がそばにいて自分まで緊張してしまったという経験はありませんか?

脳には「ミラーニューロン」と呼ばれる神経細胞があります。「ものまね細胞」と呼ばれ、他者の感情を理解・共感するための機能です。

誰かがあくびをしていると自分もあくびをしたくなる、タレントがテレビで踊っているのを見てなんとなく体が動いてしまうのは、このミラーニューロンの働きです。

ミラーニューロンは、身体反応だけではなく他者の感情も取り込みます。脳同士がネットワークのように繋がって、人の感情を他者に伝染させる「情動感染(emotional contagion)」が起こります。

たばこの副流煙のように、他人のネガティブな感情や不安を受け取り、自分のもののように感じることを「セカンドハンド・ストレス」と言います。

自分から出た不安ならば、自分で対応を考えることができます。しかし、根拠がない、理屈に合わない、自力で対応できない不安はセカンドハンド・ストレスの可能性があります。自分のものではないので打ち消すことができず不安な感情だけが堂々巡りします。

自分の不安か他からの不安かを判断し、「これは他の人の不安だ」と分かれば抜け出すことができます。

他人や環境から影響を受けやすいHSPの性質を持つ人は、セカンドハンド・ストレスを受けやすいので要注意です。不安を煽るメディアやネガティブなことばかり話す人や環境とは一定の距離を置きましょう。

3)過去に向き合い、次に備えることで不安を打ち消す

過去にあったことを思い出し、不安に駆られることがあります。「また上手くいかないのでは」「また怒られるのでは」と想像する時、過去に感じたことよりも強い感情で思い出されています。続けて考えるとネガティブな感情と自己中心的な観点でどんどん進んでいくため、初めの不安がより膨らんでもっと苦しくなります。

少し大変ですが、過去に向き合い、次に備えることで不安を打ち消すことができます。
残念ながら過去をなかったことにはできません。また、良くなかった過去に向き合うのは誰でもつらいです。しかし、しっかり向き合い、間違いがあったなら認め、次に同じような事態に陥ったらどのような選択や行動をするのかまで考えてみます。少なくとも「以前と同じように~なるかも」という不安はなくなります。

テストも全く勉強していなかったら嫌なものですが、十分に勉強したなら、その成果を発揮する絶好の機会になります。過去を客観的に捉え、未来に備えて考えておくことで、次に同じシチュエーションが来ても不安やネガティブな感情に支配されず、前向きに進んでいくことができます。

「人からどう思われるか」から解放される

不安に陥りやすい人の特徴として、「人からどう思われているか」という他者視点が気になるということがあります。

これには
①自分に自信がない
②自分しか信用できない
の2つのパターンがあります。

①自分に自信がない
自分の中に正解がない、もしくは自分の答えに自信が持てないので、他者に正解を求めようとします。信頼できそうな相手や時には占いなど、に答えを求めますが、納得のいく答えは得られず、不安は解消されません。

②自分しか信用できない
他者を自分と敵対する存在として感じてしまいます。相手からダメ出しをされないように、いつも緊張状態で、自分で自分にダメ出しをしてしまいます。

実は①も②も、他者を自分と同じ人間だと認識できていないために起こっている反応なのです。

①では他者に絶対性を求めていますが、相手は同じ人間なので絶対性はありません。②では他者を隙あらば自分を攻撃する存在のように感じているため、緊張状態が解けません。

なので、まずは「相手は自分と同じ人間だ」と捉え直すことが必要です。

そして「~と思われているかも」は一旦手放しましょう。いくら考えてもそれは自分の推測の域を出ることはなく、事実ではないからです。

他者への認知をフラットな状態に戻し、改めて対話し、よく観察してみてください。きっと「なあんだ、自分と同じじゃないか」と気づくようになります。

不安を断ち切って自分を守る

不安は考え続けると次々と不安を生み出し、膨れ上がる性質があるので、どこかで断ち切らないと心だけではなく身体まで蝕んでしまいます。一旦委縮した心や体を元の元気な状態に戻すのは時間がかかります。

不安になった時、「不安は危機管理のセンサー」と言ってみてください。それだけでも考えがパッと変わります。また、不安な要素を紙に書き出してください。書いてみると意外に大したことがなかったり、書いている最中に解決方法が思い浮かんだりします。考えが止まらない時は、口に出したり、紙に書いたり、体を動かすことで一旦考えをストップすることができます。

小さな不安を大きな不安にする前に、考えを断ち切って、自分を守りましょう。

まとめ

今回は不安についてお伝えしました。少しは心を軽くできたのなら幸いです。

今まで起こったことも、これから起こることも1つの出来事です。同じことを経験しても、影響を受ける人もいれば受けない人もいます。もし影響を受けたなら、その出来事や状況を脳で認知し、感情的に、思想的に、精神的に受け入れたからです。だから影響を受けるも受ないも実は自分がハンドルを握っています。

映画の主人公がピンチに陥った時、「面白くなってきた」という場面がありますよね。あれも不安を消す1つの方法です。口に出して言ってみることで、考えの方向性を変えることができるからです。

私自身、とても心配症で不安になりがちです。VUCA時代、先が見えないと不安にばかり陥らず、映画の主人公のように「先が見えないから面白い」と思えるように鍛えていきたいと思います。

【参考】
1.『不安の哲学』,岸見一郎,2021年祥伝社
2.『他人がまき散らすストレスに“感染”しない4つの方法』,ショーン・エイカー ミシェル・ギラン,2015年ハーバード・ビジネス・レビュー(https://www.dhbr.net/articles/-/3826)
3.『マンガでわかる「すぐ不安になってしまう」が一瞬で消える方法』,原作:大島信頼,マンガ:森下えみこ,2020年すばる舎