「今こそウェルビーイングのススメ」
はじめに
私事ですが、最近スマートウォッチが故障し、3年ほど続けてきたランニング記録のデータの一部が消えてしまうという出来事がありました。これにより大きく失望してしばらくランニングへの意欲を失っていた自分でしたが、8月の豪雨による洪水被害で被害に遭われた方のニュースを見て、なんだか急に恥ずかしくなりました。記録は消えたけれども記録を続けたおかげでサボらずに走り、健康になったことに感謝しました。
私たちはこのように小さなことで一喜一憂し、すぐに大変だとか自分は不幸だとか言ったりしてしまいます。天気がコロコロ変わったら洗濯物も干したり取り込んだりして大変なように、コロコロと変わる気分で自分の人生の幸福度を決めていたら、自分も周りも大変です。
今日はウェルビーイングという概念を元に、自分から始まり組織や社会をも継続的により良くしていく方法を考えていきます。
ウェルビーイングとは
ウェルビーイング(well-being)とは「幸福」「健康」という意味を持ちますが、肉体的、精神的だけでなく、社会的な意味も持つ概念です。決まった訳し方はなく、満足した生活を送ることができている状態、幸福である状態、充実している状態など、多面的な幸せを表す言葉です。重要なポイントは「持続的な」幸せ状態を表しているという点で、瞬間的な幸せを表す「happiness」とは区別されて使われています。
世界保健機関(WHO)憲章の前文の一節にも、well-being(ウェルビーイング)という表現が使われています。
「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることをいいます(日本WHO協会仮訳)」
つまり、心身の健康のみを指すのではなく、肉体的、精神的、そして社会的にも満たされた状態、良好な状態を維持していることを指し、すべてが満たされている広い意味での「健康」と解釈することができます。
「持続的」にする方法
SDGs(持続可能な開発目標)でもお馴染みのフレーズとなった、「持続的」という言葉は私たちにとって重要です。人生は一瞬だけ幸せであれば良いのではなく、長く、持続的に幸せであるべきでしょう。
持続的に行なう方法は、「善良なこと」「社会的・道徳的に正常なこと」を行なうことです。3つの例えを挙げてみます。
①1ヶ月間毎朝、家の周りのゴミを拾い続けてみるとしましょう。初めは面倒かもしれませんが、拾い続けていくと家の周りが清潔で気持ちが良くなるし、挨拶もしたことがなかった近所の方から感謝の声をかけてもらって幸せな気持ちになることもあるでしょう。反対に、1ヶ月間家の周りにゴミをポイ捨てし続けるとしましょう。ゴミが溜まるので、他の人もゴミを捨てることに罪悪感を感じなくなり、どんどん家の周りの環境が悪化します。集まってくるのは害虫やネズミなどで、悪臭も漂い、誰もがしかめっ面をしてその場所を通り過ぎるようになるでしょう。
②ファーストフードやコンビニのご飯は手軽で便利ですし、刺激的なものもありますが、「持続的」に摂取したらどうでしょうか?不健康になるでしょう。オーガニックなものや素朴で薄味のものを食べ続けるならば、手間はかかるかもしれませんが健康的になるでしょうし、一時的に値段は少しかかるかもしれませんが将来払う病院代は削減できるでしょう。
③法律や社会のルールを守ることを考えてみましょう。守り続けることは大変なように思えても、それこそが最も健康的に、楽に、安全に生きられる方法なのです。法律やルールを破ることで、一時的には得をすることもあるかもしれませんが、悪事を続けるならばいつかは滅びることになります。誰にも見つからないとしても、その間の心の健康はどうでしょうか?いつか捕まるのではないかという恐怖心から、いつもビクビクして人目を気にしながら生きるようになってしまいます。これはウェルビーイングとは程遠い生き方です。
「善良なこと」「社会的・道徳的に正常なこと」を行なうことは、持続的に行ないへと繋がるのです。
楽に生きる=ウェルビーイング
楽に生きるということは、ダラダラしたり、もがきや痛みなく生きることではありません。面倒くさいと言って歯を磨かなければ虫歯になって苦しむように、「一時的に楽な状態」と「持続的に楽な状態」は異なります。
「持続的に楽な状態」とは、自分が存在するためにすべきことをきちんとやって、毎日持続的に生きることなのです。たとえ一時的に苦労しても、その努力を継続していけば良い習慣が身につき、自然と行なえるようになります。その状態こそが、本当に楽な状態であり、ウェルビーイングな状態だと言えるでしょう。
大変な今だからこそ、ウェルビーイングを取り入れる
新型コロナウイルスの問題により、活動自粛やイベントの中止だけでなく、大小様々な制限や損失が続いています。「思ってもいなかった」という負の出来事が誰に対しても起こっています。失望しそうなこの時、私たちはどうしたら良いでしょうか。
私の人生の師が、「自分が願っていたことが叶わなくても、失望してはいけない。神様はもっと良いものをくださるから、努力を投げ出してはいけない」と、こんな例えで教えてくれたことがあります。
ある農夫が、果樹を植え、水と肥料をやって一生懸命育てたのですが、思ったほど大きく成長しませんでした。この時、農夫はどうすべきでしょうか。
「おい、お前。なんで大きくならないんだ。水と肥料をこんなにあげたのに、ありがたく思わないんだな。水のない苦痛、肥料のない苦痛を味わってみろ。しばらく水も肥料もやらない。管理もしてあげない。自分で大きくなってみろ。そうしたらまた水と肥料をやる。」
このようにするからと言って、果樹は育つでしょうか。いつかは枯れてしまい、農夫がそれまでに注いだ労苦までも無駄になることでしょう。農夫がすべきことは、水と肥料を続けてあげ、害虫や日照りから守り、愛情をもっと注いであげることです。
上手くいかない時、もっとやるのです。そうすれば行なった通りに変化が起こります。大変でも止まらないことです。最高の運動選手だとしても、途中で止まると何も得ることができません。
勤しんで自分の面倒をみてあげ、自分に対して、水と肥料をたっぷりあげましょう。自分を放っておかないで、自分を愛してあげ、最後まで責任をもって育ててあげるべきなのです。そして、自分を成功モデルにし、周囲の人にもそのようにしてあげるなら、実りはもっともっと大きくなっていくでしょう。
わたしたちは、善を行うことに、うみ疲れてはならない。たゆまないでいると、時が来れば刈り取るようになる。だから、機会のあるごとに、だれに対しても、とくに信仰の仲間に対して、善を行おうではないか。<ガラテヤ人への手紙6章9〜10節>
まとめ
ウェルビーイングとは、「幸福」「健康」という意味を持ちますが、肉体的、精神的だけでなく、「社会的な意味」も持つ概念です。自分自身が健康で幸せに生きるだけでなく、自分が属する組織やそこに属する人々が健康で幸せに生きられるように、努力をしていくことです。
2000年前「目には目を、歯に歯を」と言われていた時代に、イエス・キリストは「もし、だれかがあなたの右の頬を打つなら、ほかの頬をも向けてやりなさい。 あなたを訴えて、下着を取ろうとする者には、上着をも与えなさい。」と言いました。
今、2000年前に戻ってはいけません。科学技術や文化が発達したのですから、私たちの考え方や生き方も発達させるべきです。「自分だけ良ければ良い」「自分ファースト」という生き方に戻らず、人類全体がウェルビーイングを実現する生き方を、私たちが身近なところから目指すべではないでしょうか。
【参考】
ポジティブ心理学を提唱したマーティン・セリグマンは、一時的な快楽ではなく「持続的な幸せ」の重要性を説き、計測可能なウェルビーイング(well-being)理論を構築しました。この理論は、イニシャルをとって「PERMAモデル」と呼ばれ、個人の幸福を構成する以下の5つの柱から構成されています。
①Positive Emotion:前向きな気持ち(嬉しい、面白い、楽しい、感動など)
②Engagement:没頭できること(時間を忘れて何かに積極的にかかわる)
③Relationship:良好な人間関係(援助を受ける、与える)
④Meaning and Purpose:人生の意味・意義(自分は何のために生きているのか)
⑤Achievement/ Accomplish:達成する感覚・熟練してく感覚(何かを達成する)
まずは自分から、そして自分の周囲や環境をウェルビーイングにしていくために、ぜひリーダーの皆さんこそ参考にしてみてください。
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