仕事を楽しむために必要な自己効力感

仕事を楽しむために必要な自己効力感

はじめに

私たちは学校を卒業して働きだすと人生の多くの時間を仕事に費やすことになります。平日は朝起きて、身支度をして職場に行き、業務を終えて家に帰って食事をして寝ることを繰り返します。土日祝日を除くと、生活時間の7~8割が仕事の時間になりますね。

その生活が学校を卒業後、定年を迎えるまで40年以上続きます。今は定年の年齢も伸びてきていますので、50年以上、続くことになるかもしれません。仕事はいわゆる会社での仕事だけではなく、家事や育児、介護などを含めると、学校卒業後は自分の時間は限られたものになっていきます。

生きる時間の中で大きな時間を占める仕事が、「義務や生活のため」やらざるを得ないもので仕方なくやるものであった場合、40~50年もの間、辛い時間を過ごすことになります。反対に仕事が甲斐や楽しさ、成長しながら達成感を感じながらできるものなら、より人生は味わい深く素晴らしいものとなるかもしれません。

今日は仕事を楽しむ上で重要な心理学的な要素である「自己効力感」について考えていきたいと思います。

自己効力感というもの

仕事は40年以上の間、順風満帆に平穏に進んでいくかというと、多くの方はそうではないと思います。様々な艱難、困難があり、壁にぶつかり、時には打ちひしがれることを味わった方の方が多いと思います。様々な人と関わり、時にはありがたみを感じ、時には冷たいさや理不尽さを感じることも多々あり…。

前提として、仕事は「上手くいかない」ことが起こるものだと捉えた場合、人はその中で諦めることを繰り返すこともできれば、何度もチャレンジしながら乗り越えることを選択することもできます。

ただし、仕事を楽しむためには、諦めることを繰り返すよりも、辛いながらも何度もチャレンジし、成長し達成感を味わうことが生き甲斐や楽しさに繋がる要素となります。

その甲斐や達成感、楽しさを感じて生きていくために必要なものの1つが、『自己効力感』だと考えられます。

【自己効力感とは】
一言で表すと
自己効力感 = 「ある課題・行動を自分が達成・遂行できるか」に対する自信
と言えます。

カナダの心理学者アルバート・バンデューラが提唱した、仕事や人間関係など人生のあらゆる分野で影響を及ぼす自己への認知のことです。

似た言葉に「自己肯定感」がありますが、簡単に言うと下記の違いがあります。

●自己肯定感
自己を尊重し、自身の価値を感じることができ、自身の存在を肯定できる力

●自己効力感
自分を信じて、実際の行動に移す力

自己効力感とは「できると自分を信じられる力」であり、自己肯定感とは「できてもできなくても、ありのままの自分を受け入れられる力」となります。この2つには、「できない自分をどうとらえるか」という点に大きな違いです。

次に、自己効力感が高い場合と低い場合の違いについて見ていきましょう。

具体的には下記の違いがあります。

自己効力感が高い人
自己効力感が高い人は、「できそうだ!」「自分ならやれる!」と考えていますから活動的で、ポジティブな気持ちで行動するので良い結果にも繋がりやすくなります。成功すればまた自己効力感が高まるので、さらにやる気が出てくるといった正のスパイラルも発生していきます。

自己効力感が低い人
自己効力感が低いと、「自分はきっと上手くできない」「どうせまた失敗する」と考えますから、やる気も起きずに行動を起こす気力も湧いてきません。また、そうした気持ちで臨むとやっぱり良い結果も生まれにくいものです。

正のスパイラルとなるか、負のスパイラルに入るかキーとなるのが自己効力感ということがわかります。

次は「自己効力感」を更に掘り下げ、3つの種類について見ていきたいと思います。

自己効力感の3つの種類

自己効力感は以下の3つの種類に分類することができます。

自己統制的自己効力感

困難な課題を乗り越える時・新たなチャレンジをする時に、「自分なら上手くできそう」と思える感覚。自分の行動を制御することに関する自己効力感で、最も基本的な種類です。

下記のような行動が自己統制的自己効力感に当てはまります。
・失敗から立ち直る
・前人未踏のプロジェクトに自ら立候補する
・初めての仕事に対してポジティブに臨む

社会的自己効力感

気難しい人や初対面の人を目の前にした時に、「この人と仲良くなれそう」と思える感覚。人間関係に関する自己効力感です。

下記のような行動が社会的自己効力感に当てはまります。
・良い人間関係を作る
・チーム内での自分の価値を認める
・相手の気持ちを理解する

学業的自己効力感

初めて学習する内容や難しいと感じる説明を聞いた時に、「自分なら理解できそう」と思える感覚。学習に関しての自己効力感です。

下記のような行動が学業的自己効力感に当てはまります。
・決めたスケジュールをきっちりと守って勉強する
・身の周りの様々なことから学ぼうとする
・新しく、難しい概念に積極的に取り組む

3種類とも、仕事においても生きる上でも大きく影響を与えるものになります。

では次に、自己効力感を高めていくためには具体的にどのようなことをすればいいのか見ていきたいと思います。

自己効力感を高めるには

自己効力感を高めるには5つのポイントがあります。

① 自分で成功体験を積む(遂行行動の達成)
② 自分と似た状態の誰かの成功体験を見聞きし「自分にもできそうだ」と思う(代理的経験)
③ 周りに応援してもらう(言語的説得)
④ 体調や気分を整える(情動的喚起)
⑤ 成功するイメージを持つ(想像的体験)

それぞれ具体的に説明していきます。

① 自分で成功体験を積む(遂行行動の達成)

自己効力感を育てるために最も重要な要素になります。自分自身で何かを達成する、成功するといった経験は、一番強い自己効力感を得ることができます。

成功体験を積む上で特に気をつけるべき点は目標設定になります。目標設定が高すぎると、自分が理想とする成功まで達することが難しくなります。達成できない目標設定は、自己効力感を上げるどころか下げてしまいます。目標を高く掲げすぎがちな人は、自分の性格を理解し、目標を途中で修正することが重要です。

目標が高すぎると気づいた場合、小さな成功を積み重ねるスモールステップを取り入れるようにします。いきなり大きな目標に挑むのではなく、小さな成功体験を積み『自分はできる』という気持ちを自分自身に刷り込みます。小さな成功を繰り返すことで、いずれ自分が理想とする成功に達することができるでしょう。

② 自分と似た状態の誰かの成功体験を見聞きし「自分にもできそうだ」と思う(代理的経験)

自分がやろうとしていることと同じことを、他の人が実行して成功を治めたという事実を見聞きすることで「自分にもできるのではないか」という自信を生み出し、自己効力感を高める方法です。

自分が達成したいことをすでにやり遂げた人で、参考にできる人を探します。大事なことは、自分に近い人を見つけることです。大成功を収めた”世界的に有名な偉人の話”ではあまりにも自分からかけ離れているので、参考にはならず対象とはなりえません。

同期や同じ部署、社内といった、身近な存在の成功体験を見たり聞いたりしましょう。身近な人の行動をしっかりと観察することにより、自分が目標を達成するための方法を見つけることが可能になります。

自分自身の成功体験は自己効力感を高めるプロセスにおいて欠かせないものですが、同じように、身近な人の成功を観察することも自分の課題に対する対処方法を見つけることに役立ち「自分はできる」という自己効力感へと繋がるのです。

③ 周りに応援してもらう(言語的説得)

周りからの励ましや評価によって自己効力感を高める方法です。

励ましや評価を与えてくれる相手は、必ずしもその課題に対する有識者や上司である必要なく、同僚やプロジェクトチームのメンバーなどの声かけも効果があることが認められています。関係のない他人からの声かけには大きな効果を期待できませんが、自分が信頼を置いている相手であればあるほど高い影響力と効果を与えてくれます。

周りからの励ましや評価を価値あるものにしていくためには、自分への評価を素直に受け入れる心構えが重要です。上司など自分より上の立場からの評価を強く意識する人もいれば、上の立場の人間からの言葉を一切遮断して受け付けない人も存在します。同僚からの意見に一切耳を傾けない人もいるでしょう。

この方法で自己効力感を高めようとするなら、周囲との信頼関係を築くことが大切です。自分自身の良いところを知り、自分にも褒められるべき部分がたくさんあるということを知ることも大切です。

④ 体調や気分を整える(情動的喚起)

精神的に落ち着いてリラックス状態である自分自身を認識することによって安心感を覚え、自己効力感に対してプラスの影響を与える方法です。人は想像以上に感情からの影響を大きく受ける生き物であり、それは時に仕事においても、大切な機会、商談、プレゼンの結果さえも左右させてしまうことになります。

感情のコントロールならまだしも、緊張による汗、赤面などの生理的反応のコントロールを行なうのは非常に難しいものです。

すぐに導入できる対策方法としては、生活習慣を見直すことが挙げられます。自律神経に大きな負担を与えてしまう寝不足や過労などを解消することにより、自分自身にとっての心配要素を取り除き、結果として、より悪い状況になる可能性を減らします。

⑤ 成功するイメージを持つ(想像的体験)

成功体験を想像することによって自己効力感を高める方法です。

自分の成功体験を想像するということは、自己暗示や思い込みという行為です。強い思い込みは、時に、精神だけでなく身体へも影響することが”プラシーボ効果”としても知られています。

成功体験を想像し、その想像に臨場感があれば自然に行動へと促されます。未来の自分が何を成し遂げてどんな結果を得るのか、成功した時の状況や気持ちをリアルに思い描くことは自己効力感を高めることに大きく貢献するでしょう。

最後に

社会に出ると人生や仕事において、自分自身に合わせて「思い通り」にいくことは特に少なく、現実の様々な困難に直面し続けると、自分自身の可能性を「諦める」ことによって、生き抜こうと選択する状況もあると思います。

確かに何度挑戦してもうまくクリアできないこともあるかもしれません。ただ、私たちはその可能性において、実践や訓練を通じて大きく変化できる存在でもあります。

人生や仕事に甲斐を感じ、達成や楽しみを感じて喜んで過ごしていくものにするには、「自己効力感」とそれに伴う実践により自分自身を日々少しでも変化させることだと考えます。この積み重ねが更に自己効力感を高め、大きな困難もクリアできる存在になるでしょう。

最後に私のメンターが作詞した曲の詞の一部抜粋をご紹介して締めくくります。

御心がある場所なのに、どうして後ろに退きゆくだろうか
岩は崩れたが、私の心は変わりはしない
五転六起、百折不屈の実践だ