上司から適正に評価されず辛い思いをしている方へ

上司から適正に評価されず辛い思いをしている方へ

はじめに

私は20代の頃からHR(Human Resource)業界で仕事をするようになり20年以上が経ちましたが、最初に入った会社は”企業内の人事考課を代行するサービス”を提供する会社でした。

人事考課とは「社員の能力・業績・勤務態度などの評価を行なうこと」であり「勤務評定」「業績評価」とも言われます。多くの企業では上司がこの役割を担っていますが、実際、上司が部下を公平に客観的に評価することは非常に難しいため、その当時私が勤めていた会社のような人事考課専門のコンサルティング会社にアウトソーシングする企業がとても多かったです。近年は評価内容が能力考課からより適性や才能の発掘に重きが置かれる傾向になりつつありますが、大企業を中心に今でも人事考課のアウトソーシングのニーズはあると思われます。

さて、私がその会社で働きながら感じていたことは「上司が部下を適正に評価することも、外部の考課者が短期間で適正な評価を下すことも、本当に難しい」ということでした。そのような経験から、現在もし上司から適正に評価されないことで辛い思いをしている方がいるとしたら、少しでも有益がある情報をお届けできればと思っています。

上司が優れた人格を有しているとは限らない

上司が部下を評価する難しさについてお伝えする前に、まず、上司は仕事上では上役であっても、人格的にも優れているとは限らない、という前提を理解していただく必要があります。

職場の中である程度出世している人たちの中には、心理学者たちが「暗黒の3要素」と呼ぶ人格的特質を持っている人も多く存在します。暗黒の3要素とは、米Journal of Organizational Behavior誌に掲載された「不思議と出世する人の特徴」に関する140以上の研究をとりまとめた報告で、次のものです。

1)自分勝手な利益のために他人に影響を及ぼそうする
2)ひどく自己本位の考え方をする。自己愛主義者
3)他者への共感や気配りが欠如した反社会的な人格を有している

これらの特質に人格を支配されている人は周りに人が寄り付きませんし、部下から信頼されたり支持されたりすることは期待できません。しかし、これらを適度に有している場合には、出世の助けとなることもある、と報告されています。

つまり、この社会には有能で人格が優れた人たちばかりではなく、その悪い性格によって他人を利用することで出世した人たちが、一定数存在するということです。

もし皆さんの上司がそういう人であった場合、残念ながら、部下に対する公平で正当な評価はほとんど期待できません。

暗黒の3要素の特徴に当てはまる上司は、部下の功績は「自分の指導が優れていたから」と考えますし、反対に部下の失敗については「部下が無能だから」と考えるからです。もし、こういった上司の部下になってしまったら、仕事上のミスをなくすなど評価におけるマイナス要因を極力減らすことを心掛けることが得策です。間違えても「上司の期待に応えるため」といった理由で、任された業務以上のプラスの何かを行なおうとして、自分の私的な時間まで捧げて頑張る、などは避けた方がよいでしょう。

上司が部下を適正に評価できない理由

次に、上司の人格の問題以外の理由で上司が部下を適正に評価できない理由を挙げてみたいと思います。以下は、等しく考課者訓練を受けていることを前提とします。

部下に対する”認知バイアス”がある

認知バイアスとは、正常な認知・認識をゆがめる観のことです。「先入観」「色眼鏡」というと分かりやすいかもしれません。上司に強い認知バイアスがある場合、人材評価を適正に行なうことが難しくなります。

《参考》知性が高い人は自分の『観』を疑い、知性が低い人は自分の『観』に支配される

例えば、上司の認識の中に「ゆとり世代は皆使えない」という認知バイアスがある場合、2人の部下が同じ失敗をしたとしても、就職氷河期に入社した1人には「何か事情があったんだろう」と評価し、ゆとり世代の別のもう1人には「だからゆとりはダメなんだ」等と別の評価を下したりします。

この”認知バイアスの歪みによる評価のブレ”はとても深刻な問題ですが、是正するのが簡単ではないことも事実です。仮に部下が「色眼鏡で見ないでください」「先入観で人を評価しないでください」と主張しても、ほとんど効果がありません。

上司の認知バイアスを覆すためには、上司から見て一目瞭然に認識を覆す言動を見せ続ける必要があります。上記の例では、いわゆるゆとり世代の特徴と言われている言動とは真逆の振る舞いをしてみるのです。

<例>
[一般的に言われているゆとり世代の特徴]⇒[認知バイアスを覆すための言動]
自発的な行動が少ない⇒自発的な行動をしてみる
仕事よりプライベート優先⇒プライベートより仕事を優先する姿勢を見せる
など

このような言動を繰り返すことで「あの人は他の人たちと何かが違う」と感じてもらうことが必要です。これは簡単なことではありませんが、自分自身の日々の言動の蓄積が「あいつはこういう人間だ」という自分に向けての観、バイアスを形成していくことを忘れないでください。

上司の知性の水準が低い

大人は子どもの言動の意図を理解したり状況を的確に把握したりできますが、子どもは大人の言動を理解できないし、状況把握もできません。そのように、上司の知性の水準が低いとその水準と同等かそれ以下の人のことしか理解できないし、評価もできないのです。

ある大手メーカーに勤務していたエンジニアのAさんは、自社が抱えている問題を解決するために自ら業界団体が集まる展示会に参加したり、有料セミナー等にも参加して勉強し、自社に還元しようとしました。しかし、得た成果を上司に報告してもむしろ「余計な仕事を増やすな」という圧力を感じたと言います。また、同じ課の同僚たちが狭い課内で「Bさんは口が上手いから上司に気に入られている」「Cさんは本当に使えないやつだ」など勝手な序列を付け合っている姿も目にしました。その姿を見て、聞いた言葉が自分の悪口ではなくとも、Aさんの活動についても決して好意的に思っていないだろうと感じたそうです。

結局Aさんは同業他社に転職しましたが、転職先では上司に大いに評価され、年収も上がり、よく分からないマイナス評価によるストレスも激減したとのことでした。

今ご紹介した事例では、部下であるAさんに対して「会社のために尽力してくれてありがとう」と、プラスの評価を下したならAさんの進路はまた別のものになったかもしれません。

このように、考えの水準が低い上司、また考えの水準が低い集団では、水準の高い部下を適正に評価できず、その結果人材を失うことも起こりうるのです。

私情が絡んでいる

コネ入社で入った役員の息子、取引先の紹介で入社した社員など、利害関係が対象への評価は公正性に欠くことがあります。また「自分の趣味のゴルフに付き合ってくれる部下を高く評価する」など個人的な関係性を評価に持ち込んでしまうケースも多く見られます。人間である以上、程度の差こそあれ私情が介入してしまうことがあるということも知る必要があるでしょう。

自分が自分を点検し、直す

これまでお伝えしてきた通り、上司によって自分に下される評価は、上司の人格、バイアス、知性の水準、私情などの要因で、歪んでいることが往々にしてあることを知ることが大切です。つまり上司からの評価は不完全なのです。

ですから、上司からの評価を決して自己評価に直結させないことが大切です。「上司が自分をこう評価しているということは、自分の能力はこの程度なのか・・・」すべてを受け入れることをせず、「上司には自分はそのように見えているんだな」という形で「参考にする」ことが大切でしょう。

もちろん、上司からの評価を真摯に受け止め自分を成長させていこうとする姿勢はとても大切です。一方で、「上司も生身の人間であり不完全」ということを受け入れた上で、自分が自分を点検して、主体的に直していくことが重要だと言えます。

そもそも、ビジネスという世界は利益追求の場ですので、高尚な人材育成の機能を期待しない方が良いのです。

今回の記事が、上司から適正に評価されず辛い思いをしている方の助けになることを願っています。