「自分しかできない」ことは必要ない

「自分しかできない」ことは必要ない

はじめに

誰でも自分の価値を高めようとしますが、「自分にしかできない仕事」があるかどうかは、自分の価値の中で数多くある1つに過ぎません。

親は「野球チームのエースだから」「掃除を完璧にしてくれるから」子供を大事に思うのではありません。能力や役割で大切に思うのではなく、「自分の子供で愛すべき存在だから」無条件大切であり、価値があるのです。

人間の価値というのは仕事や能力だけにあるのではないのですが、「自分にしかできない仕事」や「自分だけの秀でた才能」があってこそ、価値ある存在になれると信じている人は少なくありません。

苦労して実現しても、初めは自分に自負心と生きがいを与えてくれていた「自分にしかできないこと」が、時間が経つにつれて「変化できない」「頑固な」自分を作り出したりする弊害もしばしば見られます。

「自分にしかできないこと」は、必要なのでしょうか?

「自分にしかできないこと」は必要ない

「自分しかできないこと」が増えたら、どうなるでしょうか?家庭でも、会社でも、自分がいないとその組織が回らなくなります。当然ながら、自分は忙しくなりますし、負わなければならない責任が増えます。

手に負えるときは存在意義を感じられ、充実感もあって幸せかもしれませんが、手に負えない段階になると、忙しすぎて仕事の質が落ちたり、休めなくて体調を崩すようなことも考えられます。「自分しかできないこと」が、むしろ自分や周囲に不幸をもたらす結果になってしまいます。

自分が得た特別な能力やノウハウなどは、同じ道を行こうとする仲間に伝授して後継者を育てたり、その能力を必要とする人にシェアしたりすることです。そうすれば自分も新たな挑戦に時間を割くことができるし、組織も質を落とさずに存続していくことができます。このサイクルを続ける組織は、どんどん発展し、人も育てられる組織になるでしょう。

「自分にしかできないこと」を生み出し、無くす

自分にしかできないこと、他人には代行できない仕事。こういったレベルの仕事ができるように自分を成長させようとすること自体は、とても大切なことです。一朝一夕にはできず、その段階に至った人は組織や社会に不可欠な存在となり、価値ある作品のような存在とも言えます。

問題は、その道の達人とも言うべき段階にまで至った、その後です。「自分にしかできない仕事」にこだわり過ぎて、失敗してしまう人の多くが、下記のことを忘れています。

1.類似する仕事はいくらでもある

唯一無二の仕事ができるようになったとしても、実は類似する仕事は多くあります。例えば、他社は真似できない高い性能を持った製品を開発したとして、少し劣っているけれども価格は安い、という製品は存在するでしょう。「自分にしかできないこと」に自負心を持つことは良いことですが、その仕事や技術にそこまで拘らない人からすれば、「代替するものはいくらでもある」ということも大いにあります。

2.時代が進めばもっと優った仕事は多く出てくる

社会は毎日ものすごいスピードで進化し、技術やノウハウもアップデートされていきます。著作権などで盗まれないように作品や技術を保護することはもちろん必要ですが、そんなことを気にしていられないほど速いスピードで、より良い技術や精度の高いサービスなどが誕生しています。「過去の栄光」を引きずりすぎると時代遅れになり、いつの間にか必要とされない人になってしまいます。

3.仕事や作品でしか評価されない人になる

自他共に認める「自分しかできない仕事」を全面に出して人付き合いをしてしまうと、その仕事においては尊敬を得て必要とされ、高い評価を得るとしても、一人の人間としての自分を愛し、受け入れてくれる人が減っていきます。人の価値は、能力や仕事だけにあるのではありません。思いやり、善なる心、愛情を忘れ、仕事や作品だけで自分を評価してもらおうとすることは、自らが不幸になるだけです。

「自分にしかできないこと」を生み出した後は、早く後継者や必要とする人に教え、「自分にしかできない」ことを無くすことです。そうすれば、自分が努力して得たものが多くの人に役立ち、自分も早く次の段階に行くことができます。

創業者と二代目の問題

私は牧師業の傍ら、仕事で相続や事業継承の相談に乗ることもしばしばあるのですが、創業者と二代目のトラブル問題はかなり多く見られます。

創業者に多くある主張は、「ここまで自分が苦労して土台を整えてやったのに、感謝が足りない」とか「私が始めた頃はもっと努力した。もっと必死にならないと!」といった類のものです。

二代目に多くある主張は、「その頃と時代が違う」「任せるのならあれこれ口出しをするな」「自分にもいろんな選択肢がある中で、継いであげようとしていることに感謝してほしい」といったものです。

問題解決の結論は、どちらも「お互いに感謝すること」です。

創業者は、後継者がいてくれるから自分の努力や苦労が報われるし、形や規模は変わっても自分の意志が受け継がれていくので、感謝するべきです。二代目は、自分でゼロから始めることは難しいですが、1という土台があって自分が2、3へと挑戦していけることはより楽で幸せなことだと認めることです。

もちろん問題は多種多様なのでそんなに簡単には解決しませんが、どちらかというとより立場が強い、創業者側が直す方が上手くいくことが多いような気がします。「何かを成し遂げた人」がすべき考え方をお伝えします。

自分が成し遂げたことにこだわらない

「自分が苦労して創り大きくした会社が、経営を離れた後に倒産する」など、自分が何かを成し遂げた後、後を託した人が上手くできず、本意ではない結果を生むことがあります。もちろん残念なことではありますが、もう自分の手を離れたのなら、大きく期待したり失望したりしないことです。

自分がいた時と環境や状況も変わっているはずですから、自らがやったとしても必ず苦労したはずです。後を引き継いでくれた人も、大いに苦労したはずでしょうから、苦労を分かち合う方が良いでしょう。

仕事や能力に自らの価値を見出すのではなく、何かを成し遂げる中で成長させてもらったことに感謝し、成長した自分の位置で更に次の挑戦に進むべきです。過去にこだわっている時間はありません。

1.肩書や能力に頼らず「人格を磨く」

「〇〇ができる人」だけを求めるのではなく、愛すべき存在であり「〇〇もできる」となれるよう、自分の人格を磨くことが大切です。「実るほど 頭を垂れる稲穂かな」ということわざもあるように、能力を備えた人になればなるほど、むしろ親しみやすく、飾らない人になりたいものです。

2.今大切にすべき、家族や身の回りの人を大切にする

仕事の成果にこだわるのも大事ですが、一緒に仕事をしてくれている仲間、家族や大切な人がいるから、自分が存在できているのです。失ったら後で後悔してもしきれません。自分がそのように身の回りの人を大切にしたら、自分もそのようにしてもらうようになるでしょう。

まとめ

「自分にしかできないこと」に価値を置くのではなく、自分の価値は多様にあるのだということを再認識しましょう。

人間は仕事をするためだけに生まれてきたのではありません。愛し、愛され、苦労を乗り越え、喜び、楽しむことも、人生の大きな価値です。

特別に秀でた才能だけが必要なのではなく、「自分にしかできないこと」を増やそうと欲張りすぎずに、自分も他者をも幸せにできる生き方こそ、価値ある生き方なのではないでしょうか。

「あなたがたは自分のために、虫が食い、さびがつき、また盗人らが押し入って盗み出すような地上に、宝をたくわえてはならない。むしろ自分のため、虫も食わず、さびもつかず、また、盗人らが押し入って盗み出すこともない天に、宝をたくわえなさい。あなたの宝のあるところには、心もあるからである。
(マタイによる福音書6章19〜21節)」