リーダーっぽくないリーダーの武器、‘公平性’の開発の勧め
「あの人はリーダータイプだよね」という時、どんな人をイメージしますか?
威厳があって、堂々としていて、説得力のある言葉で部下達をグイグイ引っ張っていく・・・そんな人物像を思い浮かべることが多いのではないでしょうか。いわゆるトップダウン型の強いリーダーのイメージです。
一方で、「自分は強くもないし威厳もないし、リーダーに向かないかな?」と思う方もいらっしゃるかもしれません。果たして本当にそうなのでしょうか?
今回は「部下に上から目線で接するのが苦手?!」「威厳がなく説得力にも欠けている」と自己評価をされている方に向けて、リーダーシップと権威性の関係、そして今後開発すべき資質について解説したいと思います。
リーダーに権威性や威厳は必要か?
リーダーには権威性や威厳が必要と思われがちですが、実は、そのような強いタイプのリーダーが常に輝く訳ではありません。米組織心理学者フィードラーが、「特定のリーダーシップ行動が有効に働くには、適切な条件が必要」と言及しているように、強いタイプのリーダーが特に輝く状況があります。それは、どんな状況かというと、
・仕事の構造が定まっている(仕事が定型化&プログラム化されている)
・リーダーの権限が強い
・リーダーと部下達との人間関係が良くない、距離が遠い
という状況です。ちょうど軍隊の組織ように、日々やるべきことは決まっていて、上下関係が明確で、リーダーと部下が個人的に親しくなければ、リーダーがトップダウン式にどんどん命令を下すことで仕事がスムーズに進んでいきます。指示命令をよく受け入れる「体育会系人材」が歓迎された一昔前の日本の大企業をイメージしていただくと、分かりやすいかもしれません。しかし反対に、
・仕事の構造が定まっていない(仕事が流動的でプログラム化されていない)
・リーダーの権限がそこまで強くなく現場に権限が委譲されている
・リーダーと部下達との人間関係が良い、距離が近い
という状況であれば、上から目線で威圧的な感じがするリーダーは歓迎されず、むしろ疎んじられてしまう可能性が高いです。現代は働き方も組織構造もより柔軟になり、後者のような職場環境が増えているため、求められるリーダー像もよりソフト路線に転換している、と言えるでしょう。
流動的な仕事&フラットな組織でのリーダーシップ
プログラム化されている仕事を、上下関係がはっきりしたピラミッド型の組織で進めていく場合は、誰が何をしているのかが一目瞭然です。一方、流動的な仕事をフラットな組織で自律的に進めていく場合は、誰が何をしているかが一見分かりません。
後者の状況では「Aさんが自発的に改善案を提案していた」「Bさんは整理されていない課題をまとめていた」「Cさんは部門間の調整で尽力していた」など、定型化されていない組織への貢献を評価し、分かってあげることが、組織の生産性を高める上でとても大切になってきます。
つまり、流動的な仕事を推進するフラットな組織では、正当な評価ができるリーダー、すなわち公平性を強みとするリーダーがより活躍できるのです。
権威性より公平性
現場で働く人達がリーダーに求める要素にも、はっきりこの傾向を示しています。統計自体は少し前のもので恐縮ですが、以下は20代のビジネスマンを対象に行なわれたインターネットサイトのアンケート(「尊敬できるリーダー」gooランキング、2009年調べ)の一部です。興味深いことに1位と4位に公平性に関わる項目がランクインしています。
第1位 正当に評価できる
第2位 責任転嫁しない
第3位 決断力がある
第4位 差別、ひいきがない
第5位 信頼感がある
第6位 人間的な魅力がある
第7位 部下の失敗を完全にリカバリーできる
第8位 話を聞いてくれる
第9位 面倒見がよい
第10位 教え方がうまい
私自身の経験に照らし合わせて考えても、この統計の通りだと思ったことがあります。
社員研修などで入社2,3年目の社員の方々に接してみると、優秀で潜在能力の高い人ほど上司に「正義と公平を望む」ということを感じます。「正義と公平」というと何だか戦闘物のヒーローのようですが、本当にそうなのです。
彼らが従いたい上司は、たとえ厳しいことを言うことがあったとしても個人的な感情に流されず、部下を公平に処遇できる正義の人です。反対に、ニコニコして優しいけど注意すべきところで何も言わない上司、耳障りの良いことを言うけど内心は冷たい上司、自分にこびへつらう人を重用する上司に対しては、その不公平さを見抜いて心理的に距離を置いています。そして、そんな上司や先輩ばかりだと感じると、色々な理由を付けて会社を去ってしまうのです。
公正性の開発のためにできること
では、どうしたら公平な評価ができるようになるのでしょうか。ここで評価スキルの数々をご紹介することは難しいですが、一言で言うと「割くこと」です。
「A君は頑張っている」と評価したい場合、A君に意欲の高さを感じさせる言動が増えたのか、行動量が多くなったのか、過去に比べて成果が上がったのか等、細分化して考えることが重要になります。細分化しない評価、割かない評価はより荒い評価、より単純な評価、より感情的な評価に傾くようになります。
また、人材評価の基本とも言えますが、「何を言ったか」より「何をしたか」という実際の行動ベースでの評価に重きを置く時、評価にブレが生じません。特に若手を積極的に登用する必要がある状況では、「これからこれを頑張りたい!」という発言から意欲やチャレンジ精神を評価せざるを得ないこともあります。しかし、日々の生活を詳しく観察し「言ったことを行う人材なのか」確認することは必要です。
最後に
「特定のリーダーシップ行動が有効に働くには、適切な条件が必要」だとお伝えしました。これからの時代、強いリーダーシップが求められる状況ばかりだとは限りません。公平性は後天的に習得可能な性質ですので、リーダーとしての武器として開発してみることをお勧めします。
※本記事は、2019年6月21日に投稿された記事のリメイク版です。
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