イノベーションを成功させるには?方法自体より大切な担当者の”良識”
はじめに
ビジネス環境が目まぐるしく変わる昨今、ほんの数年で仕事のやり方が新しくなり既存の方法が使えなくなってしまうことも珍しくありません。
“今まで以上の生産性を発揮するには既存のやり方では限界がある。”
このことをあらゆる業界、企業、個人が認識し始めているからこそ、新規事業、新商品の開発、新市場の開拓、新組織への移行などへの取り組みが活発化していると言えます。
しかし、大切なのは新しい何かをすることだけではなく、新しくすることで事業や開発、開拓、新組織を”成功させる”ことです。今回は、新しい試み:イノベーションを成功させるために必要な視点を、読者の皆様と共有させていただきたいと思います。
毎年発売される新商品で成功するのは1割未満
ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・M・クリステンセン教授らの研究によると、”毎年発売される消費財は三万種類を超えるが成功するのは1割に満たない”という事実があります。
ビジネススクールでマーケティング理論を学んだマーケティングの精鋭たちが最新のマーケティング分析を駆使して、「これなら市場に受け入れられるはず、売れるはず」と見込んだ商品の9割以上が、失敗に終わっている。これが現実なのです。
私たちが認識すべきは、
・(その時点で)最新と言われている手法を用いた挑戦であっても9割は失敗に終わるという現実がある。
・成功しているビジネスでも当初の計画通りに成功した事例は極端に少なく、紆余曲折を経て成功に至ったビジネスがほとんどである。
ということではないでしょうか。
つまり、マーケティングの教科書通りにやれば必ず上手くいくということはないのが現在のビジネスであり、試行錯誤や紆余曲折がないイノベーションはありえないということです。
この論文では従来のマーケティング手法(ターゲットセグメンテーション)の弱点を指摘していますが、仮に手法を新しくしたら新商品が10割売れるようになるかというと、それも疑問が残ります。なぜなら、分析手法はあくまで過去に成功したビジネスモデルの分析から導き出されますが、常に市場と市場のニーズは変わっていることが考えられますし、1つの手法が状況や環境が異なる様々なビジネスに万能薬的に役立つことは考えにくいからです。
成功まで1万回トライしたトーマス・エジソン
さて、「新商品開発における成功は1割未満」という数字を見て思い出すのが、発明王として名高いトーマス・エジソンです。
エジソンと言えば、生涯に亘って1300件以上の発明品の特許申請をするという偉業を成し遂げた人として有名ですが、その中の1つであるフィラメントの白熱電球を完成させるまでに、1万回を超える実験を繰り返したと言われています。
その実験は世界中から実験用の素材(竹)を集めるなど莫大な費用も時間も投じて行なわれました。ところがなかなか上手くいかず、とうとう失敗が1万回を超えた時、「1万回も失敗したのに、まだ続けるのか?」と友人に問われたそうです。しかし、エジソンは「俺は失敗なんかしてない。1万回も上手くいかない方法を見つけただけだ。」と返答したと言います。
ともすると何かの手法や方法論にこだわってしまいがちな現代の私たちとは全く違う発想をしたエジソンは、上手くいく可能性がたとえ0割0部0輪1毛であってもめげることなく挑戦を続け、その結果人類史に残る業績を成すことができたのです。
イノベーションを起こす人の”良識”とは
エジソンはしばしば「どうしたらあなたのような天才になれるのか?」という質問を受けたと言います。その中で「天才とは何か?」について言及した内容をご紹介したいと思います。
“I tell you genius is hard work, stick-to-it-iveness, and common sense.”
天才とはすなわち『ひたむきに働くこと』、『あきらめないこと』、『常識と良識があること』なのだ。
『ひたむきに働くこと』と『あきらめないこと』は理解しやすいですが、『常識と良識があること』を挙げていることが興味深いです。
ちなみにcommon senseは『常識と良識』と訳されていますが、辞書には、
・常識=「健全な一般人が共通に持っている、または持つべき、普通の知識や思慮分別。」
・良識=「偏らず適切・健全な考え方。そういう態度の見識。」
と定義されています。
エジソンが言うところのcommon senseは、私たちにとっての一般常識(General knowledge)とは違う意味合いがあると考えられます。
というのも、エジソンは小学校を3か月で飛び出してしまったので、正規の学校教育を受けていません。また、エジソンが12歳の時に遭った不慮の事故により聴覚に障害を負うようになり20歳の時点でほどんど耳が聞えなくなったため、社交の場に出向いて雑談に興じるようなことにも無縁だったと言います。ですから、学校や友達付き合いを通じて学ぶ知識がエジソンにとっての『常識と良識』だとは考えにくいです。
エジソンは学校には行きませんでしたが、物事の本質や真理を探究する心は非常に旺盛でした。あらゆる書物を読みふけり、生物、化学に留まらず、政治、経済、文学、医学、歴史、思想にまで見識を深め、その関心は東洋のサムライ文化にまで及び、日本の野口英世、渋沢栄一、新渡戸稲造などの文化人たちとの親交があったことでも知られています。
そういった知的な活動を通じて探求した真理が、時代や地域の違いによって偏ることがない適切で健全な考え方を培っていったと考えられますし、学歴や障害の有無に関わらず物事の本質を見極めようとする知的態度が良識を生み、天才を生み出す土台となるということではないでしょうか。
まとめ
今回は、新しく変化すること、新しい何かを生み出すことが求めらる私たちにとって教訓となるエジソンの天才の定義についてご紹介しました。
最新の手法や方法を追求することも大切ですが、新しくした上で成功もする自分自身であり、読者の皆様であることを願っています。
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