第四週 コロナ禍が農業界に与えた影響と私たちの”アフターコロナ”

第四週 コロナ禍が農業界に与えた影響と私たちの”アフターコロナ”

6 月特別企画「変化の時」
非常事態宣言が解除され、今、あらゆる業界、組織、個人が変化の時を迎えているのではないでしょうか。今月は「変化の時」をテーマにした記事をお届けします。

はじめに

緊急事態宣言が解除され、第二波が来るのではないかと恐れながらも、外出を控えていた人たちが街に出始めています。全国的に卒業式、入学式などの行事やイベントが中止、飲食店も短縮営業もしくは休業を余儀なくされた2020年の春。行楽にはちょうど良いシーズンに皆が旅行も自粛し、家に引きこもる年となりました。

それに伴い、この3〜4月の会食シーズンに向けて何か月もかけて準備をしてきた農家の人たちも落胆していたのを、どのくらいの人が知っているのでしょうか。

今回は、コロナ禍が農業界にどのような影響を与えたか、またこの「変化の時」を業界と個人が、どのようなマインドで乗り越えていけば良いか、お伝えしていきたいと思います。

農業への影響

会食がなくなった影響で、オードブルの需要がなくなり、食肉業界は高級な肉の売り先を失い、お祝いの花の代名詞である胡蝶蘭生産者は、一年かけて手入れしてきた一鉢何万円もする花を出荷できず、自ら花を切り落とさなければいけなくなりました。毎年数千人がイチゴ狩りに訪れていたイチゴ農家では、鈴なりになったイチゴを廃棄するしかなくなり、ホテルやレストランなどに卸していた農産物も不要になってしまいました。

この時期に売り上げを上げようと準備してきた農家の努力は水の泡となり、コロナウイルスを恨むしかありませんでした。また、それと同時に今までの農業のあり方、経営戦略を再考せざるをえなくなりました。

農業の難しさと販売戦略に見えた穴

農業は工業製品と違い、機械を動かせば数日で完成するようなものではありません。一年サイクルで、種蒔きから計画を立て、収穫してやっと収入になるのです。収穫するタイミングで自然災害や今回のような事態が発生すると1年間投資してきた労働力とお金は水の泡と化してしまいます。特に季節ごとのイベントに合わせて、同じものを大量に生産し収入を得ている農家はより被害が大きいです。もちろん、人間の需要に合わせ大量に作れるように栽培方法を工夫したからこそ、発展してきた農業の歴史もあります。

しかし、今回のコロナ禍のせいで、季節行事が毎年必ず行なわれるという保障はないということに気付かされました。毎年同じように作っていれば売れると思っていたものが、その目的が失われることもあるということを、今回現実として突き付けられてしまったのです。

農業はともすると″変化の必要がない産業″のように思われがちですが、「今までと同じやり方でもよい」という考え方を変える時が来ていることを、ひしひしと感じています。

コロナ禍以前からあった課題

正直なところ、地球温暖化や気候変動の影響で、すでに今までのやり方を見直す必要があったのも事実です。

安い外国産と国産農作物はどう戦っていくか、遺伝子組み換え作物が増えていく中で優良品種をどう守っていくか、農業従事者の高齢化や後継者不足で今までの技術をどう継承していくかなど課題は山積みで、変化に適応しようと一生懸命だった農業現場。

言ってみれば、コロナ禍によって考えるべきリスクが増えただけだとも言えます。しかし、それはとても急で、予想外に長期戦になってしまったのです。一時しのぎではなく、根本的に問題解決を考えていく必要があります。

逆境で新しい方向性が見えてくることも

ここまで状況を並べてみると、すべてがマイナスに行っている思いがちですが、困難な状況の中で新たな方向性が見えてくることもあり、今はそれを掴む時でもあります。

飲食店の需要は減ってしまいましたが、スーパーや個人宅配用の野菜の需要は増えているし、先見性を持ってネット販売の土台を作ってきた農家は今回販売数が伸びたという話も聞きます。産地で連携し特産品のセット販売をネット上で行なう人たちも出始めました。

また、外国人労働者が入国できず労働力を失った農家には、休業になったホテルや工場勤務などの労働者が応援に駆け付けるなど、少なからず今まで農業に関心がなかった人たちとの接点ができているのも事実です。

さらに、外出できずにインターネット上で情報収集している人が増え、新しい客層を得られるなど、災い転じて福となった事例もあります。

まとめ

すべての人の働き方や暮らし方の変化が求められるアフターコロナ。このコロナ禍を通して、私が学んだ教訓は、本当は来てほしくなかった禍であるが、来てしまった時にどう考えを転換するか、ピンチをチャンスにできるかは考え方次第だということです。

今まで見えていなかったものが見えてきて、もう今までのやり方だけではだめだと気付いた時は、むしろ大きく変化するチャンスなのです。

今後、農業の生産や販売の現場は試行錯誤を続けていくことになると思いますが、ここで普通の日常に戻ってもいけないし変化を止めてもいけないと思います。それが今後の新しい農業の形に繋がるし、これから頻繁に起こるであろう有事に対応する力にもなっていくはずです。

この記事を通して、皆さんにはさらに農業の世界に興味を持ち、農業と新しい関係を築いていってくれることを願っています。そうすることで、日本の農業は新しい形に変わっていくと、私は信じています。