第三週 あなたの成長を阻む「心のもやもや」への対処法
- 2020.09.17
- コミュニケーション
- #ずるい言葉, #善意の衣を被った支配, #客観性を装った責任回避, #理解者のふりをしてレッテルを貼る
9月のテーマ「自己成長」
「With コロナ」生活が定着しつつあります。自分一人で過ごせるこの時期は、自分成長に投資できる機会でもあります。今月は「自己成長」をテーマにして記事をお届けします。
はじめに
「理想の自分に変化したい、成長したい」と願っていても、いつの間にかその気持ちがトーンダウンしてしまうことがあります。そのトーンダウンの原因の1つに「心のもやもや」が挙げられます。
「心のもやもや」は「成長したい気持ちはある。【でもな・・・】」という風に、すっきりとした心で進めない状態を作り出してしまう点が厄介です。
今回は、もやもやとは何か?職場でのもやもやの事例、もやもやへの対処法についてお伝えしたいと思います。
「もやもや」とは何か?
もやもやとは何でしょうか?
ここでは「他者の言葉によって引きこされる、説明不能な『納得がいかない、腑に落ちない』心の状態」と定義することにします。
例えば、思春期の子とその親との間の会話で、親の希望する進路を子に強要したい気持ちを「あなたのためを思って言ってあげてるんだよ」という言葉で表現することなどが分かりやすいでしょう。親に「あなたのためを思って」という言葉を使われると、子としては親の話を聞き入れないことに罪悪感を覚えますが、「どうしてその進路を選ぶことが自分のためになるのか」の説明がない場合、当然もやもやが残ります。
もし「我が家は経済的に苦しいからその進路は諦めてほしい」とか「親の立場としてこういう点が心配だから反対している」という説明があった上で別の進路を勧められるなら別ですが、「あなたのためを思って言ってる」と言いながらその理由を説明せず単に親の希望を押し付けているだけである場合、子の心にもやもやが蓄積されていくのです。
このように「善意や愛情の衣を被った支配」が引き起こすもやもやがありますし「客観性を装った責任回避」「理解しているふりをしながらのレッテル貼り」などが原因となることもあります。これらのもやもやについて非常に分かりやすく説明しているのが『10代から知っておきたい あなたを閉じ込める「ずるい言葉」』という書籍です。タイトルの通り10代向けに書かれていますが、ビジネス社会を生きる大人にもお勧めですので是非ご一読いただきたいです。
ビジネスの場で遭遇する「ずるい言葉」の事例
家庭の中だけではなく職場でも、もやもやが生じることがあります。次に、ビジネスの場でもやもやを生じさせる代表的な言葉を、上記『ずるい言葉』から事例として3つご紹介したいと思います。
「そんな言い方では聞き入れてもらえないよ」
職場で理不尽な目に遭ったり不当な扱いを受けたりすることがあります。例えばパワハラやモラハラに遭った人が、そのことを怒りや悲しみを伴う強い言葉で第三者に訴えることは、十分理解できることでしょう。一方で多くの社会人が「きつい言葉や激しい言葉を使うことは良くないこと」という良識も持っています。
ここで訴えを聞いた人が「あなたがパワハラに遭って辛いことは分かるけど、あなたがそんな言い方をするから分かってもらえないんじゃない?」と言ったとしたらどうなるでしょうか?訴えた人としてはきつい言葉を使ったことへの反省を強いられただけで問題が解決しないので、心にもやもやが残ることは必至です。
なぜならこの言葉が、論点そのものをハラスメントではなく「言い方」にずらして、訴えた人の言葉を封じ込めようとする「ずるい言葉」だからです。
言い方がどうであれ(この場合の)本質的な問題はハラスメントですし、そもそもハラスメントは訴える側が、お願いして聞き入れてもらうという性質のものではないのです。
ちなみに、このような問題の本質から「言い方」に論点をずらすことをトーンポリシング(tone policing)と言います。直訳すると「言い方の取り締まり」となります。
一見客観的なようでいて、反対意見を「言い方の悪さ」を非難することで封じ込めようとする言葉や人には注意が必要です。
ハラスメントのような極端な事例でないとしても、もしトーンポリシングに遭遇したら、「この件(ハラスメント)自体についてあなたはどう思いますか?」と論点を本質に戻すか、本質について議論できる人や対象に訴えの先を移すことが肝心です。
「どっちにも問題があるんじゃない?」「そういう風に一方的に批判しているからいけないんじゃない?」
例えば、職場で「A先輩の仕事の教え方が曖昧なので、仕事が覚えられず一緒に仕事をするのが辛い。どうしたら良いか?」と上司に相談したとします。
それに対して上司がもし「Aの問題は〇〇で、あなたの方の問題は〇〇だと思う」と言ってくれるなら非常にありがたい指摘になります。ところが、上司の中には内容を確認せず問題点も明らかにしないまま「どちらにも問題がある」と断定する人がいます。それで部下たちがもやもやを抱えるようになります。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?人には「誰か困っていたり辛い思いをしていたら助けてあげるべき」という意識があるので、仮に上司が「それはAに問題がある」と認めると、相談を受けた自分もAへの指導など対応しなければいけないと無意識に考えます。しかしそれが「億劫」なので、相談内容を詳しく確認する前に「両方悪い」と結論付けるようになるのです。
「一方的に批判しているからいけないんじゃない?」も同様で、先輩が批判を受けざるを得ないことをしているかどうかを確認する前に「一方的に批判しているあなたが悪い」と結論付けることで、自分が問題を解決する立場になることを回避しているのです。
もしこのような言葉を言われてしまったら、前者なら「私の問題を具体的に教えてください」と返答し、後者なら「一方的な批判ではない『双方的な批判』って何でしょうか?言い争いは避けたいので、この件に関して私の問題があれば具体的に教えてほしい」と、論点を仕事の教え方や学び方に戻すことが賢明です。
「分かる分かる。そういう人、知り合いでいたから」
職場での悩みを同僚に相談した時、安易に「分かる」と言う人がいます。理由を聞くと「以前、あなたのような人に会ったことがあるから」と。
もしかしたら、同僚としては相談した人を安心させたくて、「そういう悩みを持つのは当然で当たり前のことだ」と伝えたかったかもしれません。反面、「以前似た境遇の人に会ったことがある」と言うべき話を、「(似た悩みを持つ人が)知り合いの中にいたから、あなたの悩みも分かる」と言うのは「分かっている」という思い込みである可能性が高いですし、相手の経験を「よくある、したがって大したことのない話」というレッテルを貼るという意味でも失礼なのです。
「(あなたの悩みについて)分かる」と安易に話すことは、聞く人に苛立ちを生じさせ、レッテルを貼られたというもやもやを生じさせてしまいます。
もし、安易な「分かる」発言に遭遇してもやもやした時は、「なぜ分かるんですか?あなたの知り合いと私は別人ですが」と切り出してみても良いかもしれません。
もやもやしたらどうしたらよいか?
ここまでいくつか「ずるい言葉」の事例を紹介してきました。他者の発するずるい言葉によって心にもやもやが生じているのは、ちょうど部屋にゴミが散らかっているのと同じ状態で、人の注意力や集中力を散漫にしてしまいます。そして成長への意欲を阻害してしまいます。
そうならないためにも、もやもやに気付いて即処理することが不可欠ですが、まずもやもやの原因に気付かなければなりません。夜寝る前に1日を振り返ってみて何か心にもやもやが残っていたら、自分の心を観察し自分の気持ちをとにかく書き出すことをお勧めしたいと思います。「B課長のあの言葉にイラっときた。何でだろう?『普通は皆できるって』。普通って誰だろう?何で嫌な気分になったんだろう」など、ひたすら文字化・文章化することで、自分の心にもやもやを生じさせる「ずるい言葉」があぶりだされていくことが多いのです。
最後に
最後にもやもやしないためのコツをご紹介します。
もやもやしないためには「ずるい言葉」を聞かないことが一番です。「ずるい言葉」を発する人というのはやはり「ずるい人」であることが多いので、交流を最小限にすることがお勧めです。ここで言う「ずるい人」とは、善人のふりをして他人を支配したい人、責任を取りたくない人、物の見方が偏っていて安易に人にレッテルを貼る人などのことですが、会社の先輩や上司だった場合、そうできないことがあるでしょう。
その場合、聞き流すことが一番ですが、すかさず「それってどういう意味ですか?」と真顔で聞くのも効果的です。
日頃から、理にかなった言葉、筋が通った言葉のインプットを続けることで、脳内にずるい言葉が入る余地がないようにすることも良いと思います。
<参考文献>
『10代から知っておきたい あなたを閉じ込める「ずるい言葉」』,森山至貴著,WAVE出版
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