主人意識とは?

主人意識とは?

Vol1 責任分担と主人意識

シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」の最初のテーマは「責任分担と主人意識」です。自分を成長させ活躍できる人材へと変化する上で必要なのは、「いかに自分のやりたいことをやるか」にコミットすることよりも、「いかに自分に与えられた責任分担を果たすか」「いかに自分に任された領域を良い仕事で満たすか」という考えを持つことだと言われています。そしてその責任に対して自分が主人という意識で向き合うことが大切です。


学生であれ、社会人であれ、今までに「指示待ちになってはいけない」「受動的にではなく能動的に」という言葉を一度は口にしたり、耳にしたことがあると思います。この物事に対する姿勢を理解する上で欠かすことができないのが「主人意識」という概念です。

物事を進めていく上で同じことをやっていたとしても、この主人意識があるのかないのかで、結果は大きく変わってきます。特に経営者やリーダーにとって、自分自身はもちろんのこと、同じ組織のメンバーにどれだけ主人意識を持たせることができるかが組織運営において重要となります。

今回は、主人意識についてお伝えしていきます。

主人意識とは(主人と客の違い)

主人意識という言葉には、責任感や当事者意識というような言葉が連想されます。

例えば、「主人意識」の反対の言葉を「客意識」という言葉で表現したとします。主人と客という立場はそれぞれどのような立場でしょうか。

「主人」は、経営者であれ、勤め人であれ、主婦であれ、科学者であれ、スポーツマンであれ、自分の仕事に誇りを持ち、常に向上心を持ち、創造性豊かな人と言えます。また、人から言われなくても自分で考え気付いたことをどんどんやっていく人とも言えます。

一方、「客」は、常に第三者的な立場であり、自分のことばかり考えていたり、できるだけ楽をして多くもらうことばかりを考える人と言えます。そして客の一番の特徴は、言われたことしかやらない人と言えます。

主人と客の対比から考えると、主人と客の一番の違いは、「常に頭で考えているかどうか」です。また、組織のメンバーが主人意識を持っているかどうかを評価する時、「自分で考えて行動しているかどうか」を基準にしているケースが多いのではないでしょうか。

このように主人意識の有無とは、「何かができる能力」によって評価されるものではなく、「考えて行動しているかどうか」で評価されるのです。

究極の二択。どちらの人材を用いるべきか?

主人意識の有無については「考えて行動しているかどうか」がポイントだとお話ししました。それでは、「能力の高い客」と「未熟な主人」の2人がいるとして、あなたが経営者だったらどんな場面でこの2人を登用するか考えてみてください。

能力の高い客を選ぶのはどういった場合だろうか

仕事の内容が決まっていてルーティーン作業をひたすら続ければ良いだけの仕事を任せる場合には「能力の高い客」を選んだ方がミスなく確実に仕事をこなしてくれると考えられます。

しかし、この場合は、仕事によって当初決めた結果以上のものは得られないでしょう。それは、客の特徴である、言われたことしかやらないスタイルで物事に取り組むので、たとえ問題があっても傍観して、とにかくタスクをこなしていくことだけに集中するからです。この場合は、現状維持はあっても向上していくことはない仕事や、組織となってしまう可能性が高いです。

未熟な主人を選ぶ場合はどういった場合だろうか

能力はまだまだ荒削りだが、いつも考えて行動する姿勢を備えているため、新しいプロジェクトや新規開拓の分野、また組織の将来を考えて投資する場合に「未熟な主人」を選ぶのではないでしょうか。

またあなたは、その人に任せた仕事の結果以上のものを期待することでしょう。例えば、新しいアイディアであったり、改善点であったり、または、現在の仕事を任せる場合でも、能力が未熟な部分は経験を積めば身につくことを考慮して、現状プラスαを考えて投資するはずです。

こういった例を考慮すると、「未熟な主人」と「能力の高い客」のどちらが将来勝った結果になるかと言うと、未熟な主人の方が将来的には能力の高い客よりも勝った存在になります。

つまり、能力よりも主人意識を持つことが大きいと言えるのです。

「主人となった人」が得る

主人意識の必要性をお伝えする上で参考になる、プリンシパル=エージェント理論をご紹介します。

この理論は「プリンシパル(依頼人)がエージェント(代理人)にプリンシパルの利益のために行為を行わせること」で、株主と経営者、経営者と労働者などの関係が例として挙げられます。

国家と政治家もプリンシパルとエージェントの関係だと言えますが、政治家が政治資金として使うお金は自分が汗水流して集めたものではなく、税金として国民から徴収されたお金です。そのため、代理人である政治家が国家や国民のお金について「自分が主人」と思えないことで、無駄遣いや不正が生じてしまう残念な現状が起こりうるのです。

このことは「身銭を切れ」という文献でも明らかにされており、身銭を切っていない人が上層部にいる組織は必ず物事がおかしくなると述べています。その理由は、身銭を切っていない人が行なうと、リスクを自ら負うことがなく、間接リスクのようになって適当の連鎖が起こり、少しずつズレていくようになり、不正へと繋がっていくようになります。

逆に、身銭を切っている人が上層部にいる場合の例として、外資系の会社が挙げられます。外資系の会社では面白いことに成績が悪い幹部はノルマや社内評価などによってクビになったりします。そのため、リスクもちゃんと取るし、部下の提案も受け入れるし、それによって業績を上げる努力をしているのです。

外資系はクビになることを恐れるという話もありますが、言葉を返せば、それぞれがリスクを背負って職場に努めてベストを尽くして切磋琢磨しているので、クビにならない限りどんどん向上していける快適な環境ということもできます。

つまり、身銭を切った人、主人となった人がいる組織は向上するし、主人となった人が各自の理想を得ていくことができると言えます。

問題を解決できる人を探している

どんな組織・団体においても変化していかないと生き残れない社会において、それぞれの問題に気付き、自ら取り組み、解決していくことができる人材が求められています。

それは、現在目の前に起こっている問題でも、依頼された問題点を解決できる能力がある人という訳ではなく、リスクを背負い、自ら気付いて考えて行動できる人材、主人意識を持っている人材が求められる人物像だということができます。

まとめ

今回は主人意識についてお伝えしました。

経営者やリーダーという立場で組織を運営する際は、短期的な視点ではなく、将来を見て、「未熟な主人」となる人材を発掘し、育て、組織の発展、社会の発展に繋げていっていただきたいです。


<参考文献>『身銭を切れ——「リスクを生きる人」だけが知っている人生の本質』ナシーム・ニコラス・タレブ 著, 望月 衛 、千葉 敏生 (訳) ダイヤモンド社