組織のイノベーションを阻む正体は?リーダーの責任感の欠如について
- 2021.04.29
- Vol 1 責任分担と主人意識 シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」
- #新参者が新しい何かを始める, #自由にやらせる発言, #若者を軽視しない, #責任回避
Vol 7 イノベーション
シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」の7つ目のテーマは、「イノベーション」です。イノベーションとは、「革新」「刷新」を意味する英単語で、この変化の速い社会にあって、常に新しく変化していくことが個人にも組織にとっても重要であることは、言うまでもありません。イノベーションを起こす個人、組織になるにはどんなマインドを持ちどう行動すべきか、数回に亘ってポイントをご紹介していきます。
はじめに
時代の流れを鑑み、主体的に「新しい市場を開拓したい」「古い体質の組織を新しくしたい」「より良い新商品の開発をしたい」と考える人は、それだけで仕事に対する前向きな姿勢を有していると言えます。
さらに、組織の発展や課題解決のために積極的に新しいアイディアを提示したり、具体的に構想を練って企画や提案をまとめたりして行動を起こす人であれば、十分に組織に対するエンゲージメント(チームへのコミット、忠誠心)があると言えるでしょう。
今回は、そのような組織に新しい風を吹かせてくれる可能性のあるやる気のある人材を活かし、リーダーとしてどのように、イノベーションを進めるべきか、「リーダーの責任感」という観点からポイントをご紹介したいと思います。
組織のイノベーションのため、リーダーが持つべき責任感
①「”イノベーションの芽を潰すこと”で生じる損失」への責任感
以前、リーダーシップドックに寄稿した記事『できる人のための「嫉妬への対処法」〜火のないところの煙をスルーする〜』(https://leadershipdock.net/post-2300/)でもご紹介しましたが、アメリカの科学史家トーマス・クーンによると「本質的な発見によって新しいパラダイムへの転換を成し遂げる人間の多くが、年齢が非常に若いか、或いはその分野に入って日が浅いかのどちらか」だと言います。
つまり、新しい何かを成功させることができるのは新参者、つまり若い人たち、業界に入って間もないまたは業界に縁がない人たちであることが圧倒的だということを、私たちは重々理解する必要があります。
若い人たちや経験が浅い人たちは、仕事ぶりのあらゆる点で稚拙さが感じられるかもしれませんが、先輩や上司に当たる人たちが「若いから」「経験が乏しいから」「業界の常識に疎いから」という理由で見くびったり押さえつけたりすることは、極力控えなければなりません。もしイノベーションの芽を潰してしまったら、その損失は潰した当事者と関係者たちが被ることになるからです。
発明家アレクサンダー・グラハム・ベルは電話機を発明した人としてあまりにも有名ですが、ベル自身は通信事業にはさほど関心もなく、当時アメリカ最大の電信会社であったウェスタンユニオン社に、自分が発明した電話機の特許をたったの10万ドルで売却しようとしました。しかし、ウェスタンユニオン社は、この申し出を断ってしまいます。
この時、ウェスタンユニオン社は「電話機が電報を代替して通信手段になりうる可能性は【全くない】と判断した」訳ですが、ベルが仕方なく立ち上げたAT&T社は今日、全米を代表する通信会社に成長しました。
ウェスタンユニオン社の明らかな判断ミスによって生じた機会の損失とその影響は、ウェスタンユニオン社と従業員、そして関係者が被ることになりました。
「組織が何かしらの提案や申し出を受けた場合、その判断と判断によってもたらされる結果の責任はリーダーが負う」
このある意味で当然の意識を持つことがイノベーションを起こし成功する組織のリーダーにとって、必要不可欠なのです。
②「部下の失敗の責任を負う」責任感
また、部下や後輩たちがイノベーションを起こそうとしている時に、前例主義に陥ったり「絶対失敗しないだろうな?」と問い正すなど、責任を過剰に回避しようとしないことが大切です。
責任を回避しようとするリーダーは、成功するイノベーションなら賛成、失敗するなら反対というスタンスを露骨に取ります。そういう人ほど、状況が有利になったらイノベーションの流れに乗っかり、不利になったら「初めから賛成でなかった」と言うなど、日和見的に自分の立場を変えるので、部下や後輩から支持されることがなく、このような環境下では当然イノベーションも起こりません。
本来、部下の仕事の責任を負う自覚と覚悟に欠けた人は、決められた仕事を決められた方法で進めるマネジャーとしては認められても、組織の目的に向けて組織をまとめるリーダーとは言い難いです。イノベーションを起こすことを考える以前に、”リーダーには責任性が求められる”という基本事項を理解することが必要でしょう。
③「自由にやらせる」という”無責任”への自覚
個人的に組織のイノベーションを阻害するリーダーの言動として気になるのは、”部下や後輩たちがイノベーションを起こすことを支援する”という立場を表明し「新しいことに挑戦することが大事だ」「古い連中のことは気にせず自由にやってみろよ」などと言って部下や後輩の背中を押しているようでいて、その実、責任を負ってあげるつもりが毛頭もないリーダーたちの言動です。
そういう人たちは自分自身を”理解があって人格的な人”だと自己評価し、部下や後輩から「年配の人たちは分かってくれないけど、〇〇さんは分かってくれる。かっこいい!」と尊敬を集めたりしますが、無責任であることの自覚に欠けることが多いのです。
例えば、「既存のやり方ではなく、新しい方法で営業の市場開拓を進めたい」と提案してきた部下がいた場合、仮に「自由にやらせる」のであれば、その部下が新しい方法で数字を上げられるようになるまでは、リーダー自身が部下の営業目標も責任をもってカバーする必要があるでしょう。
もしそれができないのであれば、どうしたら新しい方法で個人としての売上を落とさず市場開拓を進められるか一緒に考え、その上でチャレンジさせるのがリーダーの役割のはずですが、責任を負えないし負わないのにも関わらず「自由にやらせる」ことで、却って部下や後輩がする必要のない失敗をして自信をなくしイノベーションも起こらないようにしてしまうのです。
年齢が若かったり経験が乏しいと、会社全体を俯瞰できないのでイノベーションのための提案の的が外れていたり独りよがりになることも十分に起こり得るので、適切な形で助言やサポートをすることで成功体験を積ませることがリーダーにとって重要な役割です。それにも関わらず、そう言った役割を放棄してただ「自由にやらせる」ことは、長期的に見てイノベーションの芽を潰すことに繋がることを理解する必要があるでしょう。
まとめ
今回は、イノベーションを阻害する可能性のあるリーダーの責任感の欠如について、お伝えしました。最後になりますが、一つ残念な現状を共有いたします。
「(自分が若かった時)提案を上司や先輩に分かってもらえなかった。潰された」という辛い経験をしたことがある人は多いものですが、反対に「自分は部下や後輩の提案を軽んじたことがある、潰したことがある」という自覚がある人は非常に少なく、さらに自分の判断ミスで起こせるはずのイノベーションが起こせなかったことを「あの時は申し訳なかった」と謝罪する人はほとんど存在しません。
このことがまさしくリーダー、先輩、上司の側の責任感の欠如、無自覚の現れなのではないでしょうか。
今回の記事を通して、少しずつでも「上手くいかなかったのは部下(他人)のせいではなく自分の責任」、そして「上手くいったのは部下や後輩、周りのおかげ」という考えを持つことができる読者の皆さん、そして自分自身であることを願います。
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