そんなのアリ!?イノベーションを起こすカギになるラテラルシンキング入門
- 2021.05.06
- Vol 7 イノベーション シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」
- #常識は変化する, #結果が出れば方法は自由
Vol 7 イノベーション
シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」の7つ目のテーマは、「イノベーション」です。イノベーションとは、「革新」「刷新」を意味する英単語で、この変化の速い社会にあって、常に新しく変化していくことが個人にも組織にとっても重要であることは、言うまでもありません。イノベーションを起こす個人、組織になるにはどんなマインドを持ちどう行動すべきか、数回に亘ってポイントをご紹介していきます。
去年から今年にかけて、コロナ禍により、様々なルールや価値観の逆転現象が起こっています。そこで再注目されているのが「ラテラルシンキング(水平思考)」です。
今回は、私たちの思考の枠を広げるラテラルシンキングについてお伝えします。
ラテラルシンキング(水平思考)とは
ラテラルシンキングは、1960年代に創造性開発の第一人者エドワード・デ・ボノ博士により提唱されました。「どんな前提条件にも支配されずに発想の枠を広げる思考法」であり、「結果のためならどんな方法を使っても自由」という考え方です。
日本のラテラルシンキングの第一人者、木村尚義さんが、こんな例題を出されています。
【問題】
あなたは100mを9秒台で走るオリンピック金メダリストのウサイン・ボルト選手と競争することになりました。どうしたら絶対に勝てるでしょうか?
ヒント
毒を飲ますなど恐ろしげな手段は、推理小説に任せましょう。
(引用:木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」 第2回 専門家だからこそ抜けられない深い溝より)
30秒ほど考えてから、答えを見てください。
木村氏の回答は、「ボルト選手はジャマイカ人です。日本語でのしりとりなら、確実にあなたが勝てるでしょう。」というものでした。
「え、100m走の話じゃなかったの!?そんなのずるい!」と思った方、ここでは一言も「100m走で競争」とは言っていません。「100m走」と「競争」というキーワードだけで、「100m走で競争する」と思考がパターン化されてしまい、気付かなかったのです。
デボノ博士は、人間の脳は思考をパターン化することで、同じような事態が起こった時、素早く楽に対処できる性質があると言います。だから、固定観念を壊し、新たな視点を見つけなければ思考のパターン化をから抜け出すことができません。
では、どのようにして思考のパターン化から抜け出していくことができるのでしょうか?
ラテラルシンキングを導く3つの力
思考のパターン化から抜け出し、新たな発想を生み出すためには、土台となるものがあります。
①固定観念を打ち破るための「疑う力」
②物事の本質を見抜く「抽象化する力」
③偶然の発見を見逃さない「セレンディピティ」
1つずつ見ていきましょう。
固定観念を打ち破るための「疑う力」
ここで言う「疑う力」とは、疑心暗鬼になれという話ではなく、固定観念を一度全部取り払って考えてみよう、という意味です。
生活周りのことにせよ、仕事の場にせよ、私たちは「~べき」「~のはず」とたくさんの固定観念を持っています。子供時代のように今ある自分の現状に「なぜ?」「本当?」と問いかけてみましょう。
「なぜこのやり方なの?」「本当にそれは必要?」と疑ってみると、状況を客観視できるようになります。提示されている前提を疑うことで、新たな気付きが生まれていきます。
また、自分とは全く違う世界に住んでいる人との対話も、固定観念を壊すきっかけになります。
生まれ育った地域が違う人、世代の違う人、異業種の人など身近にたくさんいるのではないでしょうか。そういう人と話すと、たくさんの「なぜ?」が生まれますし、相手からもたくさんの「なぜ?」を貰うでしょう。前提条件の違う相手の世界を知ること、またそういう相手に自分の世界の説明をすることが固定観念を壊すきっかけになります。
「疑う力」を高め、広い視点で物事を見つめてみましょう。
物事の本質を見抜く「抽象化する力」
抽象化というと難しく感じますが、実は私たちは意識しない内に抽象化と具体化を生活の中で繰り返しています。
例えば、ハサミがなくてカッターで用を済ませた経験はありませんか?
この時、脳内ではハサミを「切る道具」と抽象化し、同じ「切る道具」であるカッターを連想(具体化)し、本来の「切る」という目的を果たしています。
抽象化とは、物事の共通の要素を取り出し、1つの概念としてまとめることです。
何か新しいことを始める場合でも、上手くいっている物事を抽象化して構造を掴み、自分に取り入れて考えていくことでアイデアの幅を広げていくことができます。
SHOWROOM社長の前田裕二氏は打ち合わせで「飴を付けたチラシを大阪と東京で配布したら、大阪の方が3倍はけた」というプロモーション事例を聞き「大阪人は東京人よりも目に見えるメリットの訴求に弱い」ということに気付きます。さらに地域性を分析した結果「大阪人は価値を感じるものと感じないものが明確に分かれている」と抽象化し、目に見えて価値を感じてもらう工夫が必要だと考え、2つのビジネスモデルを考案しました。
物事をそのまま真似するのではなく、一度抽象化して応用することで、新しいアイデアを創出し、成功したのです。
偶然の発見を見逃さない「セレンディピティ」
セレンディピティ(Serendipity)は「偶然の幸運を見つけること、またその能力」と言われます。『セレンディップの3人の王子たち』という、王子たちが旅先で偶然の出来事に知恵と機転を使って幸せを掴んでいく物語から生まれた言葉です。
世の中で偉業を成し遂げたり、何かを発見した人のエピソードを聞くと「そんな偶然ってあるの!?」ということが多々ありますよね。その中の1つの例をご紹介します。
コーンフレークでおなじみのケロッグ社の共同創始者であるケロッグ博士は教会が運営する療養施設で菜食主義の病人食など様々な健康促進に取り組んでいました。弟のウィル・ケロッグ氏は兄の研究助手や患者の食事作りをしていました。施設では病人にも消化しやすいパン開発し患者に提供していました。
ある時、茹でた小麦を長時間火にかけてしまい小麦が鍋の中でカラカラになってしまいました。興味を惹かれたウィルがローラーで小麦を延ばして焼いてみると、カリカリのスナックになりました。患者たちにも好評で、兄弟はこれを大量生産しようと思い立ちます。これがケロッグ社の歴史の始まりと言われています。
ここで大事なのは、ケロッグ兄弟が患者により健康的な食事を食べてもらいたいと日々考えていたことです。だから普通なら失敗作としてと捨てるところを「何かに使えるかも!」と興味を持って試してみたのです。
偶然を偶然として終わらせることないよう、日々感覚を研ぎ澄ましておくこと。知っていることだと捨てておかず、いつも新しい目で物事を受け入れる姿勢が「セレンディピティ」に繋がります。
ラテラルシンキングを取り入れた企業事例2選
ラテラルシンキングの事例は多くありますが、私が面白いと思った事例を2つご紹介します。
渋谷に若者を呼び込め!最悪の立地を覆した渋谷パルコ
今でこそ渋谷は若者が買い物をする街として定着していますが、その起爆剤になったのは1973年の渋谷パルコの出店です。
池袋パルコが軌道に乗り、次の出店地を渋谷に決めたものの、出店予定地は駅直結の池袋パルコと違い、駅から数百メートル離れ周囲は住宅地、商業施設としては最悪なところでした。パルコのターゲットである若者をどうやって呼び寄せたのでしょうか?
開業者の増田通二氏は、なんと渋谷駅からパルコまでの一帯を若者ウケする空間に変えてしまいました。パルコ前の坂をスペイン坂と名付け、道脇にはオシャレな喫茶店や個性的なファッション店を配置します。渋谷自体が若者の最先端のファッションの聖地になり、多くの若者が集うようになりました。
駅から数百メートルは若者にとっては大した距離ではありません。不利な状況がどうやったら有利になるのかを考え、街を大胆に創り変えてしまったのです。
平均年齢30歳のIT企業に還暦近い大工を採用し加盟店を増やしたローカルワークス
大工歴35年58歳の渡邉さんは、下請けとして仕事を貰うため、ローカルワークスが運営する建築業者とお客様を繋ぐサイトを見つけ、操作ミスで求人応募として申し込みをしてしまいました。人事担当者は疑問に思いながらもCTOの竹本さんに相談したところ一度話を聞いてみることに。
当時、会社の平均年齢は30歳、現場経験のなさから工務店と話が通じず、加盟店契約が進んでいませんでした。面接の結果、渡邉さんは1か月のお試し就職となり、予想外の活躍を見せることになります。渡邉さんは「私も元大工です」と大工トークで相手の心を掴み、工務店の加盟店契約をどんどん取っていきました。会社と工務店を繋ぐ架け橋になり、ローカルワークスの加盟店は2000社以上に達しました。
異質な人材を受け入れることで、会社の抱える問題を解決し、大きな有益を生み出したのです。
ラテラルシンキングは今の時代を生き抜く思考法
私たちの考える「常識」は、時代や地域によってそれぞれ違っています。さらに現代は変化のスピードが速く、常識そのものがどんどん変化していきます。
学校教育は、物事を論理的に積み上げて正解を出そうとする考え方のロジカルシンキングを基本としています。ロジカルシンキングは常識の範囲で正解を導くので、常識が変わると当然正解も変わります。常識を定義し直すことには時間がかかりますし、正解にたどり着くまでの理論を根底から組み立て直さなければならず、その間に時代に取り残されることになりかねません。
ラテラルシンキングは、変化のスピードが速い今の時代、備えておくと強みになる思考法なのです。
まとめ
今回は、思考の枠を広げるラテラルシンキングについてお伝えしました。
私が今の資格を取ったきっかけも、今思うとラテラルシンキングからでした。転職活動中、行き詰まりを感じていこともあり、普段ならそんなことはしないのですが希望職種欄に「書くだけなら自由だし」と未経験のキャリアコンサルタントを書きました。すると担当者から思いがけず「向いてますよ」と言われたのです。善は急げとその足で地元の専門学校を探したところ、1枠だけ空きがあって無事入学することができました。思えばあの時、経験のある企画・SP関係の職種ばかりを書いていたら今の道は拓けなかったと思います。
変化の速い今の時代、心を空けて、自由な発想で大胆に人生を進んでいきたいですね。
【参考資料】
1.『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』,木村尚義著,2011年,あさ出版
2.『まんがで身につくずるい考え方』,木村尚義著,2021年,あさ出版
3.『メモの魔力』,前田裕二著,2018年,幻冬舎
4.『20社のV字回復でわかる「危機の乗り越え方」図鑑』,杉浦泰著,2020年,日経BP
5.木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」https://www.business-plus.net/business/columnist/kimuranaoyoshi/series/index.html
6.『激レアさんを連れてきた(テレビ朝日)』2020年2月1日放送
7.『ケロッグの歴史』https://www.kelloggs.jp/ja_JP/who-we-are/our-history.html
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