慎重性の高さを生かし、「名参謀」そして「リーダー」へ

慎重性の高さを生かし、「名参謀」そして「リーダー」へ

1)慎重性の高い人に育てられた筆者

「石橋を叩いて渡る」と言いますが、用心深く、慎重に行なうことの意味ですよね。皆さんは目の前に石橋があったら、どのように行動されるでしょうか?私は「石橋をちらっと確認してダッシュで渡る」タイプでしたが、組織のリーダーという立場になってからは文字通り「石橋を叩いて渡る」ことが多くなりました。環境が人を作る、とも言いますが、自分自身を振り返ってみても本当にそうだと思います。

 先述のように私自身は行動的なタイプですが、これまで私が誰かと一緒に物事を進めるときには、不思議と「本当に石なのか?と何度も叩いてから渡る」タイプの方や、「石橋を叩いて、結局渡らない」というような慎重なタイプの方が多かったです。当時は考え方の相違でぶつかったことも多くありましたが、自分とは逆の「慎重性の高い方」から学びながら、自分自身でも1人で2役が出来るように、徐々に変化していったように思います。今振り返ると本当に貴重な経験で、もし過去の自分の状態だったならば、現在務めさせて頂いている使命は、到底果たし得なかったと思います。

 

2)「慎重であること」の素晴らしさ

 過去の様々な事例を見てみると、「無計画な行き当たりばったりの人」が成功したことがあってもそれはごく稀な事例であり、「慎重で思慮深い人」が計画的に行動した結果、成功を治めたことがほとんどでしょう。

まず慎重で思慮深い人が活躍した事例として、「名参謀」として活躍したケースが多く見られます。「世界のHONDA」として名高い本田技研工業も、創業社長の本田宗一郎氏を参謀として支えた藤沢武夫氏の尽力が大きかったと言われています。「(もし藤沢氏がいなかったら)本田技研工業は小さな町工場のままで終わっていた」と、本田宗一郎自身が認めるほどの人物で、リーダーの強みと特性を分かって自分のミッションを完遂し、世界ブランドに育て上げました。

名参謀として歴史上人気が高いのは、劉備玄徳を支えた諸葛亮孔明ですね。彼も劉備というカリスマリーダーを支えながら、その能力を存分に発揮しました。

大きな成功者の横には必ず「名参謀」が存在しますし、慎重で思慮深い人たちが多い組織は、少人数でも強力です。旧約聖書にはイスラエルの危機を救ったギデオンという人物が登場します。彼がミデアンの大軍と戦うとき、神の知恵をもらって、1万人の中から300人の精鋭部隊を選びました。その方法が、1万人を水際に連れていき、いきなりガブガブ水を飲む人やザブーンと池に入ってしまう人ではなく、毒や罠はないかを確認して慎重に水を飲む知恵のある人を選ぶというものでした。結局わずか300人の思慮深い勇士たちで、敵の大軍に勝利するようになりました。(旧約聖書 士師記7章) 

「名参謀」にとどまらず、「リーダー」として成功した人も多いです。慎重性が高く「リーダー」として成功した、日本史における代表的な人物は、徳川家康ではないでしょうか。「鳴かぬなら鳴くまで待とう ほととぎす」という言葉は有名ですが、織田信長や豊臣秀吉の側で学びつつ思慮深く時を待ち、遅咲きと言われながらも天下統一を成し遂げて200年以上に及ぶ安定した時代の基礎を築きました。

慎重性が高い皆さんは、藤沢氏のような「名参謀」としても、家康のような「リーダー」としても、成功できる可能性のある頼もしい方々ではないでしょうか。

 

3)「慎重であること」の残念さ

「慎重で思慮深い」という表現を何度か使わせていただきましたが、「慎重であること」と「思慮深いこと」は分けて考える必要があります。「慎重であること」だけを見ると、リスクも見えてきます。それは、「考えすぎて行動できない」ことです。私の周りにも「石橋を叩いて渡らない」方々もいますが、「渡らない」という判断が「消極的行動」なのか「積極的行動」なのかは大事なポイントです。「渡らない」というのは立派な行動ですが、「心配や不安」がベースにあるのか、「熟考した上」での判断なのかは、同じ行動でも全く違います。単に慎重すぎる人は、行動を起こす前に頭で「こうしたらああなる」と色々計算し過ぎてしまい、必要のない心配をして踏み出さないということも多いようです。これは単純に機会の損失だと思います。

 私には3人の子供がいますが、長男は「慎重なタイプ」で、次男は「行動的なタイプ」です。長男は機を見てなかなか行動に移せず、次男は臆することなくどんどん行動していきます。もちろんどちらも個性で、どちらが良いということは全くないですが、今のところ次男の方がストレスはなく、とにかく楽しんでいることが多そうです(笑)。次男がひと通り楽しんで終わった後、長男が「僕もやりたかった」と言い出すこともしばしばあり、親のフォローが必須です(笑)。

私が思うに、慎重である人は、予想外のことが起こったり、突然の計画変更などを嫌がる傾向があると思います。自分が計画した通りに物事がキチンと進むのはもちろん必要で素晴らしいことですが、人生という観点で大きく考えてみると、「計画通りのことしか起こらない人生」というのは、実はつまらない人生ではないでしょうか?例えば、誕生日のお祝い。計画通りのレストラン、計画通りのプレゼント、計画通りのお手紙、…面白くないですよね。計画通りの進学、計画通りの就職、計画通りの家族設計、計画通りの老後…、これも味気がない気がします。サプライズがあるから、人生に感動やスリルも喜びも生じるのであって、何もなければ無難ではあるけど、味気のない人生になってしまうのではないでしょうか。

 

4)慎重な人が確実に輝く方法

 では慎重な人が行動を起こし、活躍していくにはどうしたらよいのでしょうか?「慎重であること」で止まらずに、その素晴らしい個性を生かして「思慮深く」なり、行動に繋げていくことが必要だと思います。しかし、「慎重であること」を乗り越えて行動に移すのは、最初はなかなか難しいですよね。

 その問題を解決する方法が、私は「相棒」だと思います。もっというと、「チーム」「組織」だと思います。つまり慎重であるがゆえに「ブレーキ役」であることが多い皆さんが、最もタイプの違う「アクセル役」の人を見つけて、その人達と1つになって頑張ることです。物事を決定し推進していかなければならないアクセル役からすると、自分に合わせ過ぎないで慎重に考え適切な意見を言ってくれる人の存在は、とてもありがたく貴重なものです。

 この場合、慎重な人がブレーキ役になる訳ですが、アクセルとブレーキ両方が機能するとき乗り物も安全であるように、アクセル役とブレーキ役の両方が存在する組織は堅固で発展性があるのです。もしブレーキ役である皆さんが単独行動をしていたら、ブレーキだけが付いた車のように前に進むことができませんが、アクセル役とペアを組んだら貴重な存在となることができます。ちなみにこの記事を読んで下さっている方がアクセル役なら、自分を制御してくれるブレーキ役をぜひとも見つけて下さい。電池にプラスとマイナスが必要であるように、対極の個性をもつ存在と共に活動すると、お互いが生かされる効果が生まれるからです。同じタイプの人と付き合うと考えが似ているので楽ではありますが、自分が活かされて成功することはありません。一緒に居てちょっと居心地が悪く(笑)、自分にないものを持っている人を見つけることが大切なのです。

 

5)慎重なあなたへのプチエール

 慎重な方はぜひその個性に磨きをかけて、まずは名ブレーキ役として活躍していただきたいと思います。そのためには、アクセル役との出会いが必要です。できれば、自分より数歩先を歩いているような存在、ビジョンを見せてくれる存在に出会って、その人をまずブレーキ役として支えます。

 そして自らも学びながら、少しずつ自分の殻を打ち破っていくことです。徳川家康にとっての、織田信長のような存在に出会えると良いですね。求めればきっとそういう出会いがあるはずです。

 皆さんの人生に「想定外」をもたらしてくれる出会いや人はいらっしゃいますか?そういう存在を大切されると、とても良いと思います。いつか、「名参謀」にも「リーダー」にもなっている自分に、出会えるはずです。