結果を出せないリーダーのシンプルすぎる共通点「パトス」とは?
はじめに
私が人事コンサルタントとして企業の問題解決のプロセスに関わらせいただく時、そのプロセスがスムーズに効果的に進む組織と、なぜか上手く進まず問題が解決しない組織があります。上手くいく要因も様々ですし上手くいかない要因も様々ですが、上手くいかない組織のリーダーにはある共通点があります。
今回は、これまでの経歴や周囲からの評価も申し分がないのに、なぜか結果を出すことができないリーダーの特徴について、「説得の三原則」に照らし合わせて検証していきたいと思います。
「説得の三原則」と問題解決
皆さんは、「説得の三原則」をご存じでしょうか?
「説得の三原則」とは、古代ギリシャ時代(紀元前300年頃)の哲学者アリストテレスが説いた、″人を説得するために欠かすことができない3つの要素”のことです。
組織の問題解決を進めるためには、関連する部門や社内外の関係者たちに「なぜその問題を解決しなければならないか」という問題解決の必要性を分かってもらい適切な形で協力してもらわなければなりません。従って、組織の問題解決を進めるためには、説得力が不可欠だと言えます。「説得の三原則」は有名ですのでご存じの方も多いと思いますが、ここで簡単にご紹介します。
「説得の三原則」とは、次の3つの要素を備えて人々に話をする時に説得力を発揮することができるというプレゼンテーションに於ける法則のことです。
その3つの要素とは、以下の3つを指します。
1)ロゴス(論理・理屈)
2)エトス(信頼・人柄)
3)パトス(情熱・心情)
ロゴス:理論立てて説明すること
ロゴスとは、論理・理屈のことです。人を説得するためには、話に筋が通っておりその主張が理に適っていなければなりません。例えば、業務の改善ひとつを進めるにしても、「ただ社長の指示だから」「同業他社もやっているから」という理由だけではなく、自社の置かれている状況を踏まえて、改善を進めた未来と改善しなかった未来を比較したりしながら、説得内容が理に適っていることを示さなければなりません。必要に応じて統計やデータなど数値を用いて説明することでロゴスを高めることができます。
エトス:信頼関係を築いた上で説得すること
エトスとは信頼・人柄のことを指します。いくら筋道が通った説明をしたとしても、信頼関係がなくその人が信頼される人柄でなければ納得してもらうことは難しいです。説得においては、『何を言ったのか』ではなく、『誰が言ったか』が非常に大切です。日頃から約束を守らない、他人の批判を繰り返す、怠惰でミスばかりする、という人がいた場合、その人が瞬間的に完璧なプレゼンテーションを行なったとしても、見向きもされないことは想像に難くありません。
パトス:情熱を込めて心情的に訴えかけること
パトスとは情熱・心情のことです。「業務を改善し、この会社をより良くしていきましょう。私はそうできると確信しています!」と、自信を持って熱心に語ることも重要です。情熱は、聞く人にその思いが伝わるものだからです。反対に、たとえ素晴らしい説得内容であっても、誰かが書いた原稿を淡々と読むだけではその心情が伝わることはありません。
ロゴス、エトス、パトス、これら3つの要素が備わっている説得・プレゼンテーションによって、聞く人の心を動かすことが可能になる。これが説得の三原則です。
「問題解決の必要性は分かったけど、推進している人たちのやり方が強引で、いまひとつ信頼できないな・・・」
「上司の言うことだから従うべきだろうけど、もっと別の方法の方が問題解決には効果的じゃないかな?」
もし、話を聞いた人が上記のような心証を持ったとしたら、説得に成功したとは言い難いです。前者はエトス(信頼・人柄)に欠ける説得、後者はロゴス(論理・理屈)に欠ける説得と言わざるを得ないからです。
表向きは本気、実際は本気ではないリーダーたち
では、この「説得の三原則」と、結果を出せないリーダーの特徴にはどんな関連があるのでしょうか?
実は、私たちが想像する以上に、責任者であるはずのリーダー自身がパトス(情熱・心情)に欠けていることが、社内外の関係者たちの心を動かしきれず結果を生み出すことができない要因となっていることが多いのです。
“表向きは問題解決に意欲的だけど実際は本気ではない”リーダーの元では、どんなに人材、資金、時間、機会などのリソースを投入しても、組織にとってプラスになる結果を出してくれることは期待できません。
ここで言う「本気ではない」とは、「嘘をついている」とか「問題解決への意欲がない」ということではなく、結果を出すために払うべき代償、労力、コストを軽く考えている状態を指しています。
つまり、問題解決はしたいけど苦労はしたくないという心理状態、具体的に言うと「部下たちにやらせて、自分は論功行賞だけしていれば良い」「外部のコンサルが仕切ってくれたらそれなりに上手くいくだろう」など、リーダー自身がどこか無責任なスタンスを残したまま、自分は泥を被らずして”勝ち馬に乗ろう”とする姿勢とも言うことができます。
リーダーがこのような状態では現場で混乱が起こりますし、誰が、何を、どの程度の力加減で行なうべきかお互いが空気を読み合うようにもなって、生産性が上がるどころか劇的に下がってしまう可能性もあります。また組織への忠誠心や求心力の低下に繋がるようにもなります。
組織の問題解決を推進し、リーダーとして結果を出すためには、ロゴス、エトスはもちろんのこと、パトスが不可欠であることを理解する必要があるでしょう。
年長者の思いを見透かしている若者たち
このようにリーダーが”本気”であることは非常に大切ですが、だからと言ってパトス(情熱・心情)がある”ふり”をすることは、事態をさらに悪化させることになり兼ねないのでお勧めできません。
部下たちはリーダーのその時々の言葉の内容ではなく、むしろ一貫性を気にしているものです。場当たり的に”ふり”をしても必ず部下たちに見透かされるということを覚悟しなければなりません。
いわゆる”Z世代”と言われる今の若者たちは、感覚がとても鋭利で、40代以上の大人世代が想像する以上に、職場や学校の中にある同調圧力に過剰適応する傾向があると言われています。
つまり、本音はどうであれ、大人たちに期待されている正解を察してその通りに振る舞うことができる人が多いということです。もちろんあくまで傾向ではありますが、もはや「褒めたらモチベーションが上がるだろう」「こういう話をしたらやる気を出すだろう」という対人関係のテクニック・手法が通用しない世代とも言うことができます。
ある機械メーカーの管理職Aさんは、営業部門の部下たちに向けて事あるごとに「既存のやり方に囚われず新しい挑戦をしなければならない」と話し、新しい販路の開拓案を出すことを奨励していました。
実際に案を出した部下にはその場で「良い案だね」などプラスのフィードバックをしていましたが、いざ部下たちが実行に移そうとしてAさんに決済を求めると「これで上手くいくと言い切れるのか?」「情報が不足していて決められない」など、煮え切らない対応をすることが続きました。
その結果、部下たちの方が「どうやらA課長は本気ではないのでは!?」と察してしまい、その後Aさんの課は、あからさまな反発はないものの誰もAさんの働きかけに反応しないという”暖簾に腕押し状態”になったと言います。当然販路の開拓も全く進みませんでした。
このように、人の心を動かすにはパトスが不可欠ですが、リーダーの本気が言葉だけの場合、そのこと自体も人々に伝わってしまうことも忘れてはならないでしょう。
まとめ
今回は、結果を出すことができないリーダーに共通して見受けられるパトスの欠落についてお伝えしました。
「リーダーが本気でなければその組織が変わることはない」
このシンプルではあっても表面化しづらい事実を心に留め、ロゴス(論理・理屈)やエトス(信頼・人柄)の面での改善だけに傾倒しすぎず、組織の様々な問題解決に処することをお勧めします。
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