部下や後輩の不満にどう対処する?〜道理の共有と個人の自立を考える〜(後編)
はじめに
前編では、部下や後輩が職場で不満を抱えてしまう状況とその原因について考察しました。簡単に概要をおさらいします。
部下や後輩が不満を抱える原因には、大きく分けて次の3つがあるとお伝えしました。
①上司の人格や言動に問題がある(組織が機能していない)
②組織に属する人が道理を分かっていない
③組織に属する人が精神的に自立していない
①は「人によって態度を変える」「気分次第で行動する」「残業せざるを得ない状況になると分かって仕事を押し付ける」など、上司の人格や言動によって引き起こされる不満です。①に起因する不満については、上司として、また先輩として真摯に受け止め、改善していく努力が必要でしょう。
②は部下や後輩たちが、「仕事とは何か」「働くこととはどういうことか」という道理に関して、理解が及んでいない、もしくは誤解があることによって原因で生じる不満です。②に関しては、社内、部内などの職場環境の中で道理に関する共通認識を持てるよう、粘り強く対話を続けることが大切になります。
今回は、③の”組織に属する人が精神的に自立していない”について、詳しくみていきます。
依存心が強い人ほど不平不満が多い
③の原因である”精神的に自立していない”状態は、世界的名著として名高い『7つの習慣』を著したフランクリン・コヴィー博士の言葉をお借りすると、「私的成功を成す前の依存状態にあること」とも言えます。
『7つの習慣』は有名なためご存じの方も多いかと思いますが、成功する人が持つ7つの習慣の内、最初の第1〜3の習慣を身につけることで、依存した状態から自立した状態へと成長することができると言われています。
人は誰でも、100%親や周りの大人たちに頼らなければ生きていけない赤ちゃんとして人生がスタートします。その後、様々なことを経験し学ぶことで身体的にも精神的にも成長し自立していくようになります。この自立した状態が「私的成功」と定義されています。そして、私的成功を遂げた人が、第4以降の習慣を身につけていくことで、周りの人たちとの関わりの中で社会的な成功を目指していきます。これが「公的成功」です。
ところが、現代社会では公的成功はおろか私的成功の段階に至っていない人、つまり肉体的には大人だけど精神的には自立できていない依存状態にある人が非常に多いと、コヴィー博士は指摘しているのです。
・不平不満ばかり言うくせに自分では何もしない
・人をすぐに敵対視する
・できない理由ばかり考える
・自分が上手くできないのは上手く教えてくれない上司のせいだと考える
・愚痴を言って憂さ晴らしをしている
・「どうせ私なんて」が口癖になっている
・自分の可能性を最初からあきらめてしまっている
・挑戦している人たちを小ばかにする
・失敗した人を「ほら見ろ」とあざけ笑う
・人の成功を素直に喜べない
・いつも同じメンツで群れて自尊心を満たす
・誰かが助けてくれるのを待っている
・先延ばしをする
・自分で新しい習慣を作れない
こういった特徴がある人は、コヴィー博士が言うところの依存状態にあると言えます。依存状態にある人は、他の人たちと協働したりウィンウィンの関係を作ったりすることができません。また、どうしても上司が助けてくれない、同僚が助けてくれない、親が分かってくれない、国家が何もしてくれないと、様々なものに不満を抱えがちになります。そして、誰かが自分を助けてくれることが当然なので、感謝の気持ちを持つこともできません。
つまり、精神的に自立できていないと、職場はもちろんのこと、何事にも不満を抱いてしまうことになります。先述した、②の「道理について無知であること」も関係している場合が多いですが、依存状態にある人はたとえ上司や先輩が道理を教えたとしても、感情的に受け入れられず一層不満を増幅させてしまうのです。
上司、先輩としてどう部下や後輩の精神的自立を促すか?
では、自分の部下や後輩が、精神的に自立していない状態にある場合、上司、先輩として何ができるでしょうか。
ここで前提となるのは、上司であり先輩である自分自身が、精神的に自立していることです。
精神的に自立していない上司や先輩が、部下の自立を促すことが相当難しいことは言うまでもありません。当たり前のことのようですが、上手くいかない原因を、部下のせい、前任者のせい、上役のせいにして、何か次第の(反応的な)生き方をしてる組織の上役は、意外なほど多いのです。
まずは自分自身を顧みて、特に自分より弱い立場にある部下に依存しているところがないか、確認する必要があるでしょう。
そして、精神的に自立している上司や先輩にお勧めしたいのは、【圧倒的な実践力によって主体的に仕事を推進する姿を見せること、そしてそこに部下や後輩たちを巻き込むこと】です。
金沢大学の金間大介教授が、著書の中で「最近の若者たちは現役選手しか尊敬しない」と語っているように、令和世代の部下や後輩に対しては、上司や先輩は「自分が若い頃はこのようにしたよ」という過去の経験を話して聞かせるのではなく、目の前で「自立した状態で仕事をすることがいかに社会人として素敵でかっこいいか」をやって見せて、さらにその実践に巻き込みながら自ら体験できるように促すことがポイントなのです。
例えば、相談について学んでほしい時には、部下や後輩の目の前であえて自分の上役に質問や相談をします。そうすることで相談をしても良いという認識を持たせ、相談する際のタイミングや相談の仕方を学んでもらえます。また、この時部下や後輩にも「(上役に)聞いておきたいことはないか?」と巻き込み、自分の体験とさせることも有効です。
依存状態にある人は、えてして自分で決めて行動すること自体が苦手なので、こういう小さな体験の積み重ねを通して自立を促していくのです。
このような”見せて巻き込む”という率先垂範型のリーダーシップは、全ての組織や全ての人材において有効である訳ではありませんが、精神的に自立していない部下や後輩への働きかけとしては最善かと思われます。このようにすることで、職場への不満が軽減され、精神的に自立した人材への変化を促すことができるのです。
最後に
前編、後編に亘って「部下や後輩の不満にどう対処する?」について解説してきました。
部下や後輩が不満を募らせていることを知った時、そのことを「部下や後輩の問題」と考えるか、あるいは上司、先輩である「自分の問題」と考えるかによって対処方法が変わってきます。場合によっては、対処しないという道を選択をすることもあるでしょう。
いずれにしても、根本となる不満の原因を把握・洞察できてこそ、職場の雰囲気も良くなり人材の育成も進むようになります。今回ご紹介した内容を組織運営にお役立ていただければ幸いです。
【参考】
『先生、どうか皆の前で褒めないでください』金間大介著,東洋経済新報社刊
部下や後輩の不満にどう対処する?〜道理の共有と個人の自立を考える〜(前編)
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