「サンクコスト」∼うまくいかない時には方法を変えよう∼

「サンクコスト」∼うまくいかない時には方法を変えよう∼

「サンクコスト」とは

サンクコストという言葉をご存じでしょうか。
サンクコスト(sunk costs)とは、「埋没費用」や「過去コスト」とも呼ばれる将来的に回収できる見込みのないコストのことです。過去に投資した費用や時間などのコストに対して「もったいない」という心理が働くことで、知らず知らずの内に膨れ上がってしまうのがサンクコストの特徴です。
「このままではよくない」「このままではまずい」と内心気づいているにも関わらず変化のための手立てを打つことができないと、そのことによってサンクコストが増大し、個人も組織も衰退の道をたどりかねません。

今回は、どのような人がサンクコストを生じさせるのか、また現状維持の方向に傾く気持ちをどのようにコントロールすべきかについて、お伝えしたいと思います。

柔軟性が低い人ほど「サンクコスト」を生む

身体が固い人と柔らかい人がいるように、考え方が直線的でまっすぐな人と、多様で柔軟な人がいます。ここでは前者を柔軟性が低い人、後者を柔軟性が高い人としてお話をしたいと思います。

柔軟性が低い人は、一度決めた道や方法を続ける傾向があります。新しい環境や新しい状況に適応するのに時間がかかるので、一度何かを決めたらあまり「路線変更」をしようとしません。

例えば、小学校時代に始めた習い事を高校や大学まで続けるなど、一途に一つのことに打ち込むことができるのは柔軟性の低い人に多く、さらに「その道のプロ」として職人的に頭角を現したりするのは、柔軟性の低さが功を奏したケースと言えます。

反面、路線変更に対して消極的なので、変化が必要な時にも既存のやり方を続けてしまいます。つまり、柔軟性が低く路線変更が苦手な人ほどサンクコストを生じさせる可能性が高いのです。

柔軟性が低いAさんの事例

とあるメーカーに就職し社会人になったばかりのAさんは、一年前は都内の名門私大に通う就活生でした。快活で成長意欲旺盛な努力家でしたが、柔軟性が低いことで就職活動において2つの点で苦労していました。

1つ目は、内心合わないと感じつつも志望する業界をなかなか変えられなかったことです。

Aさんは、在学中に体育会系のバトミントン部に所属していましたが、先輩が勧めてくれた広告業界に行くと決心し、相当数の広告会社にエントリーしましたが、二次選考以降に進めないことの連続でした。その時Aさんは「どうしたら二次選考を突破できるか?」だけを考えて、「別の業界に志望を変えること」を考えなかったそうです。その結果、他の就活生よりも大幅な遅れを取ってしまいました。

改めてキャリアセンターの先生と面談を繰り返しながら自分を見直した結果、必ずしも広告業界に行かなくてもAさんが志す方向に進めることに気づき、志望業界をメーカーに変えて、やっと内定を獲得することができました。

2つ目は、部活に打ち込むあまり、視野と考えが狭くなってしまったことです。

Aさんは4年生の引退時まで熱心に部活を頑張りましたが、部活以外の活動はほとんどせず、部活以外の学生との交流もほとんどないまま家と学校と近所のバイト先(お弁当屋さん)を往復するだけの生活を続けていました。さらに、ニュースを見ないし新聞も読まない、本は漫画と学校の課題図書だけという生活を続けてきたことで視野が狭くなり、多様な考え方や価値観に触れないまま就活の時期になってしまいました。Aさんとしては、大学生活を通して「自分はとても成長できた」と思っていましたが、OG訪問の時に「Aさんは部活以外の話をしない。世界が狭い」とOGに指摘を受けたことで、自分が部活以外の世界を見てこなかったことを痛感したそうです。

体育会系の部活動では、団体戦での勝利、個人戦での勝利に照準を定めて一丸となって頑張ることで、上下関係、チームワーク、組織運営、克己心、自己管理など社会生活で必要とされる様々なことを学ぶことができます。企業の採用担当者の中でも、部活動という環境を通して鍛えられ、人間的に成長した体育会系の人材を、積極的に採用したいと考える人が多いです。

しかし、体育会系の部活動を通じて得られる成長や成功だけが、社会における成功の全てではないということも事実です。多様な価値観を受け入れたり、上下関係なんて意に介さない若者たちのモチベーションを管理したり、既存の枠組みやルールがない世界でもうまくやっていく力が必要な今の社会では、部活動で培った能力だけでは立ち行かないことも多々あります。

いわゆる「体育会系人材」が誰でも柔軟性が低いということでは決してありませんが、成長や成功のベクトルを「特定の活動を通して得られる成長や成功」だけに限定してしまうと、Aさんのように「自分に何が欠けているのか」気づくことができないリスクに見舞われることがありますし、何より就活に要する時間と労力が、ひいては大学時代という貴重な時間や経験がサンクコストになってしまうリスクがあることを知る必要があるでしょう。

「うまくいかない時には方法を変える」

実は私自身も、どちらかというと柔軟性が低く、何かに専念すると「それしか見えない状況」にすぐ陥ってしまうタイプです。何かに行き詰まると「努力が足りないからだ」と考えて、ひたすら同じ方法で前へ前へと進もうとしてしまいます。特に過去に成功体験があったことに関しては、「この方法・この環境でうまく行ったのだからこれからもうまく行くはず」という固定観念に縛られて、結果的に路線変更をしないまま時間ばかりが過ぎてしまいがちです。しかし、このことがサンクコストを生み出すことにつながり、新しい方法を模索して研究する他の人たちからどんどん遅れをとってしまいます。

そのような失敗を何度も繰り返していたのですが、ある時、私のメンタルコーチが「うまくいかない時には方法を変えることだ。」と話してくれました。その時は目からうろこが落ちたような気持ちになりました。

物事がうまく進まない時、やろうとしていることに問題がなく、努力もしているのであれば、単純にやり方を変えれば良い、目的は1つでも方法は無数にある、と。このことを理解できてからは、ストレスが激減するようになりました。

最後に

柔軟性が低い人は「路線変更」を避け、サンクコストを生じさせる傾向があります。「うまくいかない時は方法を変えること」、この言葉をぜひ心に留めていただくことで、皆さんが、変化が必要な時に過去にとらわれず新しい方法・新しい環境を積極的に選択していけることを願っております。

※本記事は、2019年8月19日に投稿された記事のリメイク版です。