リーダーが人に対して嫌気がさした時にすべき’3つ’の処方
人材の質の変化によるリーダーへのプレッシャーの増大
「経営の神様」と称された松下幸之助氏は、自身のビジネスで作っているものは実は「人」であり、「電気製品」は「人」を作ることに併せて行なっていることだと話しました。
私が企業内研修や教育で関わらせていただく企業や団体のリーダーの方々も、「人を作ることの大切さ」を理解しつつ、どうしたら部下を伸ばし組織の生産性を上げることができるかという課題に真摯に取り組まれています。
そんなリーダーの方々が頭を抱える問題の1つが、近年、マネジメントの対象となる人材の質の変化していることで、「トップダウンでは動かないけど主体的に行動するわけでもない人材」が業界・職種を問わずに増えてきたことにあると感じます。自分達が若い時に受けてきた指示・命令・叱責のマネジメントは今の部下の世代には到底通じない、かと言って部下の主体性を尊重して権限を委譲すると今度は「どうしたら良いか分からない」と言って立ち止まってしまうので生産性が下がってしまう…。このような矛盾やジレンマを組織のリーダーが一手に担うことになり、「部下に厳しく接してはいけない、でも組織目標は達成しないといけない。さらに働き方改革のため残業をさせるわけにはいかないが、生産性を上げないといけない」というプレッシャーに苛まれてしまうケースに遭遇することが増えてきました。
何よりも恐ろしいリーダー自身の気力の減退
このような状況に対して、「今の若い人たちは“そういうもの”と割り切って接するしかない。リーダーが合わせるしかない」と考えて解決できれば良いのですが、現実問題としてリーダーの方々の「心の疲弊」が組織運営上、看過できないほどの問題になることがあります。
リーダーが部下達の未熟な面、利己的な面を見た時に、「教えよう」「フォローしよう」という気持ちが維持しきれなくなり、頭では「相手は成長過程だから仕方がない」と分かっていても、どうしようもなく疲れる、面倒だ、うんざりだという気持ちが先行してしまうようになります。
これはリーダー自身のマネジメント能力に問題があるというよりも、ストレスによって心が疲弊し正常な判断やコミュニケーションに支障を期待している状態、つまり、「人に嫌気がさした状態」とも言えます。
「人に嫌気がさす」。気力と体力が充実している時には想像がつかないことかもしれませんが、ストイックに自分を顧み自己研鑽に励むリーダーであればあるほど、このような状態になる可能性も高いため、気を付けなければなりません。放置するとリーダーとしてのパフォーマンスは下がり、余裕がなくてきつい語調になりがちなあなたを部下達が避けるようになり、不要な心情的な軋轢を引き起こしかねません。
ビジネスリーダーに必要な「メンタルタフネス」とは?
さて、厳しいプレッシャーの中でも結果を出さなければならないスポーツアスリート達も、そのパフォーマンスを支える心・精神力の強化には余念がありません。スポーツ心理学の権威であるジム・レーヤー氏はスポーツアスリートの精神力(メンタルタフネス)の構成要素は4つあると説いています。
①強さ(Strength):「何としても勝つ」という意思の強さ
②耐久性(Durability):良い精神状態を維持する力
③柔軟性(Pliability):刻々と変わる状況に合わせてベストを尽くす力
④回復力(Recuperative strength):逆境や劣勢を引きずらないで挽回する力
実は、この4つはスポーツアスリートだけではなく’ビジネスアスリート’の精神力にもほぼ合致する内容だと言えます。精神力(メンタルタフネス)と言うと、「業界売り上げトップを目指して皆を引っ張っていく」などまさしく「強さ」を連想することが多いですが、むしろ想定外のことが起こったり複合的な状況が絡み合ったりしている実際の仕事の現場では、リーダー自身の余裕のある振る舞い、臨機応変さ、楽観的で前向きな姿勢が業務を進める上でとても大切であることを、体験的にご存知の方も多いかと思います。
リーダーが「人に嫌気がさしている状態」というのは、このメンタルタフネスの構成要素の中の、耐久性、柔軟性、回復力をじわじわと奪い取っていくものだと知る必要があります。強さ(Strength)は際立っているけど、イライラし、他人に対して寛容になれず、落胆してしまっているなら、「人に嫌気がさした状態」に陥っているのかもしれません。仮に自覚がなくても部下達が自分の振る舞いに当惑していることを感じたら、この点において自分を点検してみる必要があるでしょう。
3つの処方
では、どうしたら「人に嫌気がさした状態」から脱却することができるのでしょうか。私の周りにいらっしゃる優れた指導者たちと自分自身の体験を元に、僭越ながら「3つの処方」を挙げさせていただきます。
①努力した自分を認める
まずは「自分は“人に嫌気がさす”ほど部下に真剣に関わってきた」ということを認めて、自分を肯定的に評価することです。リーダーが部下達の成長にコミットせず責任を負わなければ、それほどまでに疲れることもなかったのです。まずは自分自身が心の許容範囲の限界まで努力したことを認めることが必要だと思います。
②ひたすら体力の回復に努める
気力は体力と密接な関係があります。気力の減退を防ぐ方法として、体力の回復に手を付けることも手っ取り早く有効です。具体的には、部下との関係で悩む時間があったら早速ベッドに潜り込んで寝てしまう、消化が良く美味しいものを食べる等です。また最近は、「脳の疲労は運動によって効果的に解消される」という研究結果も明らかになっていますので、何もやる気が起きない時こそ心拍数を上げる運動に没頭することが、体力気力の回復に有益です。
③戦略的に気力を高める施策を取る
部下達との関係で失われた気力を取り戻すために、戦略的に気を受けることです。セルフコーチングに関する書籍を多数出版されている米チャールズマンツ博士は、「自分へのご褒美」戦略を提唱していますが、自分の気持ちが高揚するもの、嬉しくなるものを、計画的に生活に取り入れることをタスクにするのです。私の場合は、「明け方、とにかく早く起きて、誰にも邪魔されない時間に好きなことをすること」、これに尽きます。
まとめ
今回は、最前線で部下達の指導や人材育成に関わってきた方々が陥ってしまう可能性がある、「人に嫌気がさした状態」について、またそこから脱却する方法についてメンタルタフネスの理論を参照しつつ、解説いたしました。
「人を作る」という崇高な仕事をされている方々が、人に疲れずに過ごされることを願っております。
<参考>
「成功と幸せのための4つのエネルギー管理術―メンタル・タフネス」CCCメディアハウス
ジム・レーヤー、トニー シュワルツ他
「脳を鍛えるには運動しかない!!最新科学でわかった脳細胞の増やし方 」NHK出版
ジョン・J・レイティ(原著)、エリック・ヘイガーマン (著)
-
前の記事
人目を気にしない「理念」あるリーダーになるために 2019.10.28
-
次の記事
仕事へのモチベーションが高い「コーリング(Calling)」タイプとは? 2019.11.11