セルフ・コーチングの勧め 成功するのは「自ら気付き悟る人」

セルフ・コーチングの勧め 成功するのは「自ら気付き悟る人」

Vol 6 自己理解と役割の認識

シリーズ「ここに神経を使う人が逸材になる」の第6のテーマは、「自己理解と役割の認識」です。自分を理解できる分、他者のこともよく理解できるようになると言います。また、自分の適性、長所短所、能力、実力、個性、才能などを詳しく把握してこそ、組織・社会の中でより有益な貢献ができるようになります。今後、今以上に自分で自分自身のキャリアを開発していく必要があるこの時、より深く自分を知り自分を作るために必要な観点を、数回に亘ってお伝えします。

セルフ・コーチングとは?

セルフ・コーチングとは、「自ら」の意のセルフが付くコーチング、つまり自分が自分をコーチするコーチングのことです。

通常のコーチングは、コーチがクライアント(コーチングを受ける人)の目標達成、業績や能力の向上をサポートするために行うもので、企業の中では上司が部下指導のために活用することが多かったですが、パラレルワークなど雇用の流動化が進んだ昨今では、今まで以上にセルフ・コーチングが大切になることが予想されます。

少し前の資料で恐縮ですが、2002年に『THE21』(PHP研究所)という雑誌でセルフ・コーチング特集が組まれた時、私が巻頭記事を書かせていただいた際の内容を抜粋してご紹介したいと思います。

表示のイラストはボス・マネジメントとコーチング、そしてセルフ・コーチングの違いを表したものです。

最下のセルフ・コーチングを実践すると、自分で目標を立てて達成し、自分にご褒美を与えたり、知識を得るために自分に投資をしたりします。

つまり、セルフ・コーチングの最大の特徴・メリットは、上司がいなくてもまた自分専属のコーチを雇わなくても、自分で自分を管理できることにあると言えます。

今回は、このセルフ・コーチングを実践してメリットを享受するために知っておくべきポイント、観点についてお伝えします。

コーチングの基本は「現在地」「目的地」「課題」3つの確認

しかし、セルフ・コーチングを実践しようとすると、思うように上手くいかない現状に陥ることがあります。それは、自分一人がコーチとクライアントの二役を担わなければならないというセルフ・コーチング特有の難しさもありますが、最も大きな要因はコーチングの基本である「現在地の確認」がブレやすいことにあると、私は考えています。

現在地とは”現在の自分の状況”です。コーチングをシンプルに表現すると「クライアントが現在地から目的地に向かうことをサポートすること」と言えます。


  現在地⇒⇒⇒⇒目的地
      ↑↑↑
  ギャップが課題:コーチングで扱う内容


例えば、あるクライアントの体重が現在100キログラムで、目標が70キログラムであるならば、ギャップである「30キロ多い体重」がその人の課題になるので、コーチは30キロの減量が成功するようサポートします。

しかし、もし現在100キログラムで目標も100キログラムである、つまり「今の体重でも良い」と考えている場合、その人には課題がないので、どんなに優秀なコーチがサポートしてもコーチングも減量も不可能ということになります。

ここで大切になのが、「現在体重が100キログラム、半年後の目標が70キログラム、課題は30キログラム体重が多いこと」という風に、現在地、目的地、課題のそれぞれを明らかにすることです。

これらのいずれかが曖昧だと、コーチングが必ず頓挫してしまいます。

「そんなことは当たり前」と思われるかもしれませんが、セルフ・コーチングにおいては特に「現在地の確認」が弱くなりがちで、自分自身の課題が見えないが、故に何をどうして良いか分からないという状況になることが非常に多いのです。

自分では現在地を正しく認識できない

実際にあった具体例をご紹介しましょう。

ある自治体主催の市民講座でセルフ・コーチングの講座を担当させていただいた時、受講者の方から「職場の雰囲気が悪すぎる。とにかく風通しが悪い。何とか良く変えたいが、セルフ・コーチングでも可能ですか?」と質問を受けたことがありました。「職場を変えることはセルフコーチングの趣旨とは異なるが、職場の雰囲気を良くするために自分が何ができるか考え実践することは可能。その結果として全体の雰囲気も変わるかもしれない。」と返答しました。

ところが詳しく話を聞く中で、その方本人が対人関係スキルにかなりの難があることによって、他の人たちとの関係性が悪化し、そのことが「風通しが悪い」雰囲気に感じられていることが予想されました。しかし、その方にとっての課題はあくまで「職場の雰囲気が悪いこと」で、「自分の物言いの厳しさや配慮のなさ」が職場の雰囲気を悪くしている可能性については全く考えが及ばないようでした。むしろ「私はサバサバした性格だから」と高く自己評価する状況でした。

このように「自分の何が課題で、何を変える必要があるか」を知ることは非常に難しく、特にセルフ・コーチングでは第三者からの新しい視点を得づらいため、課題解決以前に課題発見すらできない現状になることが多いのです。

人格やヒューマンスキルほど自分を知ることが難しい

体重の事例のように、”測定すれば明確になる現在地”であれば、コーチング、セルフ・コーチング共に扱いやすいですが、職場生活に直結する人格に関することや種々のヒューマンスキル(リーダーシップ、心の広さ、気配りなど)は数値での測定ができないが故に、自分の現在地を確認することが難しくなります。

さらに、通常コーチングにおいては、クライアントが強く望んでいる場合以外は、クライアントの現状について直接指摘したり言及したりすることはほぼありません。また、企業内における部下育成のためのコミュニケーションでも、部下に対する注意や指摘に関して、言い方や加減など上司の方々が非常に気を使っているのが実状です。つまり、積極的にコーチを受けたがらない限り、放置されるのが今の世相とも言えます。だからこそセルフ・コーチングが大切になる訳ですが、そのための現在地の確認は「自ら気付き悟る」形で行なわなければなりません。

自分に基準を持つ

では、自分の現在地を「自ら気付き悟る」には、どうしたら良いでしょうか?

それは、自分を測る基準を持つことです。体重を測る体重計のように、自分の人格を測る基準を設定するのです。

仕事の基準であれば、自分が目指す分野で高い基準で活躍している人から積極的に取り入れることでしょう。例えば、京セラの創業者でJALの名誉会長をされている稲盛和夫氏は、書籍や講演会などでことあるごとに「謙虚であることの大切さ」を語っていらっしゃいますが、そのような話を聞いて「稲盛さんは謙虚な人なんだ」で終わるのではなく、稲盛さんが仰る謙虚を基準にして「果たして自分は謙虚なのかな?謙虚さはどの程度なのかな?」と自分を測るのです。このプロセスを通じて、謙虚さに関して自分を知ることができます。このように謙虚さ以外の人生の様々な面で基準を設定していくのです。当然、生き方の基準、人生の基準も必要でしょう。

このような現在地の測定を通して、
「頑張っているつもりだったけど自分は甘かったな」
「辛いと思っていたけど案外良い待遇を受けていたんだな」
「落ち込んでいたけど、先輩達も失敗を乗り越えていったんだな」など、多面的に今の自分の現状を知ることができるようなり、直接的に誰かから「これを直しなさい」と指摘を受けたり大失敗したりせずとも自分を知ることができ、自分をコーチするスタートラインに立つことができるのです。

まとめ

今回はセルフ・コーチングについて、セルフ・コーチングが機能するポイントについてお伝えしました。自分を知ることは難しいようでも、自分について一番深く洞察できるのも自分ですので、今以上に自分を知ることに努められ、自分が自分をコーチすることに成功する皆さんとなることを願っています。