自分を”有能”に作る方法~速く、たくさん、繰り返して行なう~

自分を”有能”に作る方法~速く、たくさん、繰り返して行なう~

ビジネスパーソンの自己研鑽を助けるメディア「リーダーシップドック」、先月から仕事術に関する記事をお届けしています。今回は、”自分をどう有能に作るか”について。いくら素質や才能があっても、行わなければそれらは顕在化しません。仕事の向き不向きを問う前に、今以上に自分を有能に作る努力をしてみませんか?

※本記事は2021年2月25日に投稿された記事のリメイク版です。

はじめに

「果たして、今の仕事が自分に合っているのか」

このように考えるビジネスパーソンは多いものです。転職市場が成熟し、転職先の選択肢も増え、転職そのものへの心理的ハードルも下がった今日、数十年前に比べて私たちが自分の仕事と適性について考え悩む機会は、むしろ増えたかもしれません。

しかし、ここ数年、適性を検証する段階に至る前に「もう無理!自分には合わない!」と言って、その職種・業種でのキャリア自体を諦めてしまうケースも散見されるようになりました。本気で取り組む以前に、またはあまりに短期間の内に”辞めること”を先に決めてしまうのです。

今回は、このような現状を踏まえて、キャリア形成において見逃されがちではありつつも欠かすことのできない視点をご紹介したいと思います。

“不快感情”に左右されていないか?

営業職に就くAさんは、念願叶って希望する商社へ転職しました。営業職希望ではありませんでしたが、業界と業務について理解を深めるため営業職に就くことになったそうです。ところが、入社1ヶ月も経たない時点で「こんな”昭和的な”仕事なんてやっていられない!自分には合わない」と考え早々に転職活動を始めてしまい、その身が入っていない仕事ぶりによって現状、退職を申し出たとしても誰からも引き留められる雰囲気ではありませんでした。

Aさんは決して能力が低い訳ではありませんが、顧客との関係を構築するため地道な訪問を重ねたり直接的に受注に繋がらないサポート業務をする社のやり方を”古い”と感じ、新しい仕事のスタイルを志向する自分には合わないと感じてしまいました。

何が”昭和的”なのか、また本当に社のやり方が”昭和的”なのかどうかなど、Aさんの見解の是非はさておき、私たちが仕事への適性を考える時、”不快感情”に対して過剰反応していることはないか、確認する必要があるかもしれません。

実際、米心理学者トッド・カシュダン氏とロバート・ビスワス・ティーナー氏は、現代人が快適な環境を手に入れ幸福感情を追い求めるに従って、不安、心配、罪悪感などの不快感を避ける傾向を強めてきていることに、警鐘を鳴らしています。

両博士は共著『The Upside of your Dark Side』(邦題『ネガティブな感情が成功を呼ぶ』草思社)の中で、人々が楽しさ・充実感など人生におけるポジティブな感情を追い求めるあまり『幸福中毒』に陥り、ちょっとした不快感に過剰反応するようになっていること、そして、一見ネガティブに思える感情こそが人生を成功させる上で不可欠であること、などを指摘しています。

人は快適な職場環境、物分かりの良い上司、魅力的な仕事が揃っていればより幸福感を得やすいですが、それらにこだわるあまりほんの少し幸福感が損なわれただけで過剰に不安になるケースが後を絶たず、むしろ快適とは言い難い職場環境の中で理不尽な目に遭っている人が、そのネガティブ感情をバネに高業績を上げるケースが多々あると、事例も紹介しています。

この話は決して「わざと不快な環境に身を置くべき」とか「必要のない苦労をすべき」ということではありません。しかし、適性について議論する以前に、不快感情を避けようとするあまり実践が圧倒的に不足していることはないか、考える必要があると思います。

スポーツ選手など明らかな身体的な資質や能力に依存する職業でない限り、実践する前から「自分に合う」「合わない」を議論することが無意味であることは言うまでもないかもしれませんが、実践に伴う”不快感情”に支配されて早々に見切りをつける今の風潮と、ライフワークバランスの概念の普及により「私生活を犠牲にして仕事をするのは良くない」という世相が、特に成長期にあるビジネスパーソンの実践力を損なうことに繋がるのは、残念なことだと思います。

業績は職務能力×実践量

適性の有無に関わらず、業績は概ね次の数式で測ることができます。

業績=職務能力×実践量

つまり”能力と実践量の掛け合わせ”がその人の業績となります。

打率3割の打者は「10回打席に立つと3本ヒットを打つ」ので、打率2割の打者が3割打者に対抗しようとするなら、1.5倍多く打席に立てば良いということになります。2割打者が10回なら3割打者は15回打席に立てば同じヒット数を確保できます。

野球の試合では打席数に限りがありますが、ホワイトカラーの仕事は時間や効率を調整することでいくらでも打席を増やすことができます。

もちろん、業績を測るためには市場の状況や商品の競争力など考慮すべきことが多くありますが、基本的に業績を上げるためには能力が低ければ実践量を、実践量が低ければ能力を高める必要があることを、ご理解いただけると思います。

当然のことですが、周りの人たちより多くの成果を上げたいなら、能力を高めるか多く実践しなければなりません。

このことはどんなキャリアを選択しても当てはまることです。適性によって能力開発の程度に多少の差が生じることは否めませんが、キャリア形成においてそれ以上にモノをいうのが”愚直な実践”であることを肝に命じることでしょう。「しんどい」と感じたその段階から”もう少しだけ”行うことで、自分の成長の伸びしろを一気に広げることができます。

実践は、速く(早く)、たくさん、繰り返すこと

最後に、能力を向上させ実践量を増やすコツをお伝えします。それは「速く(早く)、たくさん、繰り返し」行なうことです。

速く行なう人は、同じ時間でも効率良く仕事を進めることができます。すべきことを先送りにしないで即対応するので仕事を溜めることがありません。

また、継続的にたくさん行なってみることで、成果を確認しやすくなります。「体脂肪率を減らして筋肉をつける」ためには、ちょこちょこと数回ダンベルを上げ下げするだけでは変化がありません。数十回、数千回、数万回行なってこそ、一目瞭然に結果が分かるようになります。

そして、上手くいってもいかなくも繰り返し行なうことです。仕事で成果が上がらない人を見ていると、実践していない訳ではないけれど、1、2回やって止めてしまっていることがほとんどです。それでいて「やったけどできませんでした」と安易に結論付けてしまいます。”やっているけど成果が出ない”という状態は不快ではありますが、どんなに優秀な人でも最初は誰でも上手くできません。「こんなことをやって意味あるの?」などあれこれ考えてやったり止めたりせず、粛々と淡々とすべきことをするという態度が大切になります。その結果、確実に実力を身に付けることができます。

結局、どんな人が業績を上げその分野でのキャリアを極めるのかというと、速く、たくさん、繰り返し行なった人なのです。

今回は、キャリア形成において必要以上に適性にこだわるより愚直な実践にこだわる必要性について、お伝えしました。

最後に経営の神様と言われたピータードラッガーの言葉をご紹介して締めくくりたいと思います。

「幸福(感情)はもう良いから、やるべきことをやれ」

感情に左右されず実践することで、適性に悩むことなく成果を手にする読者の皆様になられることを願っております。