“頑張りすぎ”を自覚したら~セルフ・コンパッションの勧め~
はじめに
あなたは自分のことを責任感の強い方だと思いますか?
2016年のISSP(International Social Survey Programme)国際比較調査「政府の役割」の時の統計結果から、日本人である私たちは、他国の人々に比べると、自助意識が強く、共助・公助の意識が弱い傾向にあるという分析が発表されています。
極端に言えば、「人に頼らず自分で何とかしなければ」と自分に責任を求めることをまず考えるということです。
そのような責任感の強い人がリーダーになると、チーム全体のことを自分の責任の範疇にあると捉え、あれこれ過剰に仕事を抱え込みがちになります。その結果、燃え尽き症候群やメンタル不全に陥るケースもあります。
今回は、責任感が強く頑張りすぎなリーダーたちにぜひ知ってほしい、「セルフ・コンパッション」についてお伝えします。
セルフ・コンパッションとは
セルフ・コンパッションは、日本語ではよく「自分への思いやり」と表現されますが、もう少し深い意味を持っています。
セルフ・コンパッションの概念はマインドフルネスの研究から発展して生じたと言われます。マインドフルネスは仏教的な考えであり、自分の中に起こるさまざま感情について、善悪を判断せずあるがままををひとまず受け入れることを重視します。
compasshionの語源はラテン語のcompassioで、「神の憐れみ」の意味を持つキリスト教の言葉です。偉大な神の視点から見て、神が創造した人間は非常に小さく愛すべき存在です。そして、どのような姿であっても憐れみ、救いの手を差し伸べる対象です。
自分の内面に沸き起こる感情を人間に共通する普遍的なものとしてあるがままに受け入れ、神の視点で自分を憐れみを持って見ることがセルフ・コンパッションの本質なのです。
セルフ・コンパッションの構成要素
セルフ・コンパッションの提唱者、アメリカの心理学者クリスティーン・ネフ博士によるとセルフコンパッションは、以下のような図で示されています。
「セルフ・コンパッション:最良の自分であり続ける方法」より
自分への思いやり
自分を受け入れ思いやること、優しい気持ちを自分に向けることです。自己批判では自分のネガティブな面に目を向け自分を責め立てます。しかし、自分に優しい気持ちを向けると自分の良い面にも気づき、改善すべきところをポジティブに捉えるようになります。
共通性の認識
自分の苦しみや失敗は誰しもが持つという人間の共通性に気付くことです。自分だけではないと気付くことで孤独感に陥ることなく、他者にアドバイスを求めたり、冷静さや楽観性を取り戻します。
マインドフルネス
自分の状態、感情をありのままに受け入れることです。ネガティブな感情に支配されず、バランスを保つことができます。
減点法で見ていないか
常に頑張っていないと気が済まず、まだまだダメだと自分を追い込み続ける人は、一見向上心が高くよく頑張っているように見えます。しかし実はセルフ・コンパッションが足りていない場合があります。
「理想の自分が常にあり、それに足りない自分ばかりが見える」「物事が成功してもその過程で自分が足を引っ張ったことの方が気になる」など、減点法で自分を評価しがちな人は要注意です。
セルフ・コンパッションの低い人がリーダーになると、その視点が自分が所属するチームに移行し、チームの足りなさ=自分の足りなさ、として否定的な感情で見るようになります。そして、「リーダーである自分が頑張らなくては」と考え、チームメンバーに任せず、一人で抱え込んでしまうのです。
気付いたらどうするか
物事の足りなさに気付くことは、危険を察知する力に長けている、ステップアップするための目標がはっきり見えるという点では長所です。なので、そのセンサーは残しつつ、現状への評価を変えましょう。今ある現状は、いくつかある内の1つの到達地点、もしくはもっと先に行くための過程にあると捉えてみましょう。
その上で現状の足りなさに気付いたら、チームの人に共有してみましょう。同じように感じる人がいたら相談していけば良いですし、いなくても一石を投じるきっかけになります。焦って一人で何とかするより誰かの助けを借りてやる方がはるかに早く解決する場合も多いです。
セルフ・コンパッションを高め、抱え込まない自分になろう
セルフ・コンパッションが高いと、満足感・幸福感が高まり、ストレスが減っていきます。まずは自分のありのままを受け入れ、チームに対しても今ある姿を受け入れましょう。
チームに対して「もっとこうあって欲しい」というのはチームでの共同作業です。チームは1つの肢体です。リーダーが頭になって、チームメンバーがそれぞれの役割を持って有機的に動いてこそスムーズに物事が進みます。チームの問題をリーダーだけで解決ようとすることは、体の不調を脳だけで解決するようなものです。どこに支障があるのかはその時その時で変わりますし、現場で働いている人だけが分かることもあります。意外なところに問題解決の糸口があって、それこそ自分は指一本も動かさなくて解決する場合もあります。
終わりに
私自身も今、セルフ・コンパッションを高めることに挑戦中です。自分のネガティブな面や感情を受け入れるのはちょっと大変な時もありますが、一旦受け入れてしまうと、次にどうするのかがすっと見えてきたりします。
最近やっと、自分に「ちょうど良い」仕事の量が分かってきて、オーバーワークの時に人にお願いしたり、そもそも仕事を断ったりすることができるようになってきました。何より、それでも物事が進んでいくのが分かったことが大きな発見でした。
セルフ・コンパッションを身につけることは、初めはなかなか難しいかもしれませんが、責任感が強くストレスを感じやすい人にはぜひ挑戦していただけたらと思います。
【参考文献】
ISSP国際比較調査「政府の役割」
https://honkawa2.sakura.ne.jp/5184.html
https://core.ac.uk/download/pdf/299811706.pdf
『甘やかしでも、うぬぼれでもない自己の姿 セルフ・コンパッション:最良の自分であり続ける方法』,関西学院大学教授 有光興起著,DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー論文(2019)
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