知性が高い人は自分の『観』を疑い、知性が低い人は自分の『観』に支配される
はじめに
アインシュタインは「常識とは、18歳までに積み重なった、偏見の累積でしかない。」という有名な言葉を残しました。
常識、つまり私たちが「当たり前」「それが普通」と思っている様々な「観」(人生観、職業観、死生観、倫理観、ジェンダー、結婚観など)というのは、自身の体験と自身の周りで起こった出来事を根拠にした偏った物の見方と思い込みによって形成されているということです。
今回はこの観が私たちの人生に与えうる影響と、観の是正によって得られる有益、可能性についてお伝えします。
「観」によって認知・認識が決まる
私たちは多かれ少なかれ、観に支配されて生きていると言えます。
典型的な例では「一度就職したら3年間は1つの職場で働き続けるべきだ」という親の職業観を受け継いだ人は、就職して1年で転職を考えた自分自身について「転職を考える自分には忍耐力が不足しているかもしれない」と考え、環境についても「まだこの職場で学べることがあるはずだ」という認識を持つようになります。
一方、「転職は当たり前」「自分を活かせる職場を見つけたら積極的に変えるべき」という職業観を持っている人であれば、同じ状況でも自身の忍耐力を低く評価したり、既存の環境での修練に拘ったりせず、3年を待たずに転職することが推察されます。
つまり、観によって自分自身や環境への認識・評価が決まり、観によってその後の判断や行動も変わってくるのです。
ちなみに、正常な認知・認識をゆがめる観は心理学の用語で”認知バイアス”と表現されます。皆さんがよく耳にするであろう言葉に言い換えると、先入観、色眼鏡でしょうか。
例えば、ある男性管理職が「女性=(イコール)感情的」という「観」を持っている場合、女性の部下の主張を「感情的」と評価したのに男性の部下が同じ主張をしたら「説得力がある」と評価した、などがこれに該当します。
留意すべきことは、男性管理職は本人としては正しく、公平で、客観的な認識を持っているつもりだということです。自分に認知バイアスがあることに気付いていないのです。
私たちは、認知し認識しているものはすべて、自分自身の「観」を介して見ている現実だということを理解する必要があるでしょう。
知性が高い人ほど自分の観を疑う
米心理学者ロバート・キーガン;リサ・ラスコウ・レイヒーが著した『なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践』には、大人の知性の3つの段階が次のように定義されています。抜粋した要点と合わせてご覧下さい。
・環境順応型知性:周囲の環境に受け入れられ高い評価を得るための知性。組織の中で「良き兵卒」となれる知性。自分が見た現実が真実だと考える程度の認識能力。
・自己主導型知性:周囲の環境を客観的に見るようになり、自分自身の判断基準を確立しつつ周りの期待を判断し選択を行なえる知性。組織の中での「自信に満ちたキャプテン」となれる知性。自分の観による認知・認識に自信を持っており、自分の判断によって周囲を変えようとする。
・自己変革型知性:自分自身の主観や価値基準を客観的に見てその限界を検討できる。あらゆるシステムや秩序は断片的で不完全なものだと理解している。自分の「観」による認識が絶対正しいとは思わず、絶えず自分の「観」の妥当性を疑い、観の是正に努める。
キーガン博士とレイヒー博士の研究によると、人間の知性は、環境順応型知性の段階から自己主導型知性の段階へ、自己主導型知性の段階から自己変革型知性の段階へと向上していくと言います。
この知性の段階の特徴を決定付ける尺度の1つが、観です。
知性の水準が低いほど自分が見た現実が真実だと思う程度が高くなり、水準が高いほど自分が有している観(フィルター)が完全ではないと理解していると言えます。
7、8歳の子どもは、夜空を見ながら自分が歩いても空の景観が変わらないことを通して、”夜空の星が自分について来ている!”と認識します。しかし、科学の授業で星と地球との距離を学んだ中学生は、”夜空の星が自分について来るように見える“が真実だと理解するようになるのです。
知性が低ければ低いほど、自分が見聞きして感じたことこそ正しいと思い込み、知性が高ければ高いほど「自分の観によって見えている現実は真実ではないかもしれない」と疑うというのは、興味深いことではないでしょうか。
観を是正する
同書によると、社会的に頭角を表し成功する確率が高いのは、最も知性の水準が高い自己変革型知性を有する人だそうです。考えてみれば、稚拙で偏ったものの見方しかできない人より、広範な視野を持ち、まっとうな認識を持つ人の方が信頼されるし仕事を上手く進められることは、想像に難くありません。
私たちに必要なのは、自分が自分独自の観を通して物事を認識していることを知り、観に支配されるのではなく、自分の観の妥当性を疑い、観をより良いものに是正することではないでしょうか。
自分が当たり前だと思っている常識、観によって自分や周りの人たちを狭くて偏った認識に閉じ込めていないか、確認が必要です。今一度、観による歪んだ認識の発生が脳内で起こっていないか、自己点検してみてください。
まとめ
今回は観についてお伝えしてきました。
観をより理想的なものに是正するには、知性を高めることが不可欠だと言います。つまり、今以上に賢く聡明になる努力をすることが、観に縛られずに生きるポイントになるのです。キーガン博士とレイヒー博士は、人間の知性の向上は大人になった後も十分可能だと指摘しました。「自分の観と認識を絶対視せず、疑う」、私自身このことから心がけ、知性の向上に努めたいと思います。
<参考文献>
『なぜ人と組織は変われないのか ― ハーバード流 自己変革の理論と実践』
ロバート・キーガン (著), リサ・ラスコウ・レイヒー (著), 池村千秋 (翻訳)英治出版
※本記事は2021年1月28日に投稿された記事のリメイク版になります。
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