逆境に耐え抜く力を蓄えよう!ネガティブ・ケイパビリティのすすめ

逆境に耐え抜く力を蓄えよう!ネガティブ・ケイパビリティのすすめ

はじめに

インターネットの発達により、私たちは疑問や困りごとへの解決策を得ることが容易になり、時短・効率化が求められるようになりました。一方で新型コロナをはじめとするパンデミック、ウクライナ・ロシアの戦争と物価高騰、自然災害など、先が見えないまま、状況だけが好転・暗転を繰り返す事態も続いています。

先行きが見えない状況は、脳にとっては不安で不快なもの。それを解消したくて、ネットに存在するもっともらしい理論に飛びついてしまう人もいます。

そんな中、注目されているのが、ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability)、答えのない事態に耐え得る能力です。

ネガティブ・ケイパビリティとその効用

ネガティブ・ケイパビリティを日本について、精神科医・小説家の帚木蓬生氏は、著書の中で「論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を回避せず、耐え抜く能力」と言及しました。

これと対極となるのが、より理論的に考え、問題を迅速に処理・解決していく能力(ポジティブ・ケイパビリティ)です。現代社会ではこちらの方が求められがちです。

しかし、未経験の不測の事態や、逆境に置かれた場合にはネガティブ・ケイパビリティが力を発揮します。

脳には、目の前のことに意味づけをして理解しようとする特性があります。だから、SNSに投げかけて答えをもらったり、自分の困った状況を解決してくれそうな理論や本を見つけると飛びついてしまいますが、それは一時的な対処法にしか過ぎないことが多々あります。実は敢えて不可解なものをそのままにしておいたり、受け入れることで、次の段階に進むこともできるのです。

ネガティブ・ケイパビリティは、ただじっと耐えていることではありません。むしろ、新しいものを発見するために敢えて迷ってみる期間とも言えます。

例えば、ミュージシャンなど芸術分野の人々の中には、〆切があると分かっていても、自分の中にアイディアが出てくるまでは他のことをして何も手を付けない、と言う人たちがいます。アイデアを出すために何かをするのではなく、その状態を受け入れあれこれ他のことをしているうちに浮かんでくるそうです。

宙ぶらりんのまま「何もしない」ことはとても怖いことですが、そこから何かが生まれると分かっていれば、必要なプロセスとして組み込むこともできる、という訳です。

やり過ごす方法はいろいろ

では、どうすれば宙ぶらりんの状況をやり過ごすことができるのでしょうか?

①観察する

今までの方法が通じなくて「分からない」のだから、その状況を眺める「経過観察」にしてみましょう。そのままにしておいて、状況が変わるのか、変わらないのか。それが分かるだけでも一歩理解が進んだことになります。

②備える

もう少し何かやりたい場合は、事態が好転した時に必要なことを探し、備えるのも良いと思います。不安もまぎれますし、状況が好転した時に「やっておいて良かった」と思えます。

③放っておく

心のすれ違いや、感情的な問題は、しばらく放っておくことで、お互いの気持ちが変わって解決することがあります。人間関係は、いつも一定の距離でなければ、ということではありません。あえて距離を置くことで、お互いの良さが見えることもあります。

他にも、ネガティブ・ケイパビリティを発揮し、やり過ごす方法は様々です。悔しい気持ちを創作のエネルギーにする人もいます。焦って動いてもどうにもならないから、とお気に入りの場所でのんびり過ごしたり、身の回りの整理をする人もいます。

落ち込まず、自分を腐らせず、あるがままを受け入れて、迷いながら進むことで、これまで出会えなかった自分、人、状況に遭遇することもあるでしょう。逆境に陥ると一瞬パニックになりますが、どうしようもない状況なら、むしろ開き直ってやり過ごすことをこれからの人生の選択肢の一つに入れてみてください。きっと今まで見えなかった景色が見えてくるはずです。

終わりに

今回は、答えのない状況を耐え抜く力、ネガティブ・ケイパビリティについてお伝えしました。

聖書の一節に「順境の日には楽しめ、逆境の日には考えよ」という言葉があります。人生はいつも順調にいく訳ではありません。逆境の時は必ずあります。しかし、それは悪い状況のように見えて、実は物事を見直すチャンスだと言っているのです。

実は日本は諸外国に比べ、ネガティブ・ケイパビリティの高い国と言えます。自然災害が多いことも、国民性としてネガティブ・ケイパビリティが高くなった要因です。東日本大震災やコロナ禍では、社会秩序を維持しようとする姿勢が高く評価されました。パニックを起こし、さらに状況を悪くするよりも、静かにしている方がはるかに良いということを知っているのです。迷って時間がかかったとしても、問題の本質に向き合うことで、新しい発想や考えが生まれ、次の次元に上がってきたとも言えます。

もし今あなたが苦しい状況に陥っているなら、それは人生のステップを一つ進めるために備える期間かもしれません。焦らず急がず、今しかできないことに目を向け、柔軟にやり過ごしていきましょう!

【参考】
『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』,帚木蓬生著,2017年,朝日新聞出版