部下のモチベーションは、「新しいことに挑戦」より「成長できる環境」にある

部下のモチベーションは、「新しいことに挑戦」より「成長できる環境」にある

「どうしたら部下のやる気を高めることができるか?」

このことは多くのマネジャー・上司が頭を悩ませることの一つではないでしょうか。

一方、部下の側に「どうしたら自分はもっとやる気が高まると思うか?」尋ねてみると、意外な答えが返ってきます。部下にとってのモチベーションの源泉は「明確な企業理念」や「新しいことに挑戦できる風土」より、「成長できる環境」や「ついて行きたい上司」にある。このギャップを理解するとき、部下育成やコーチングがしやすくなります。

 

アンケート調査「どうしたら部下のやる気を高めることができるか?」

以前、拙著「部下を伸ばす技術~コーチング」を執筆した時、当時発行していたメールマガジンの読者を対象に「上司と部下の意識調査」を実施したことがありました。

上司(管理職に就く人)100人には「どうしたら部下のやる気を高めることができると思いますか?」と質問し、部下(一般職)100人には「どうしたら自分がもっと自分のやる気が高まると思いますか?」と質問したところ、双方にはっきりとした認識の違いがあることが分かりました。

上司の回答では、1位が「新しいことにチャレンジできる風土」2位が「明確な企業理念」、そして3位が「職務権限の拡大」が挙がっていました。上司達のイメージでは、部下達がより自由に、より大きな権限をもって、企業理念に基づいてどんどん行動できるようにしてあげることが、モチベーションを高めるポイントだと考えていることが伺えます。

反面、部下の回答の1位は、「教育制度の導入、充実」、2位は「有能な上司、魅力的な経営者」、そして3位が「明確な企業理念」でした。僅差で「金銭的な報酬」「新しいことにチャレンジできる風土」が挙げられています。部下達の方は、教えてほしいし魅力的な指導者について行きたい、という希望が満たされるとやる気が高まる傾向が垣間見えました。

 

モチベーションの源泉の違い

このアンケート結果を見ると、何が仕事のモチベーションになるのか、上司と部下とで認識の違いがあることが分かります。上司は、かつての自分がそうだったように上昇志向や野心、出世欲を満たすことを考えるけど、部下は「ビジョンが欲しい、成長したい、ついて行きたい」とう願望を満たすことがモチベ―ションになるのです。

どちらが良いか悪いかという議論は置いておき、もし読者の皆さんが上司・管理職の立場でいらっしゃるなら、「上司と部下はモチベーションの源泉が違う」ことを理解し、その上で部下の方々に接することがとても大切になります。

具体的には、部下がOJT以外でスキルアップできる環境を整えてあげることが必要ですし、自分自身が部下からみて有能で魅力的な人材になる努力をしなければなりません。もし「あの人からもっと学びたいからこの会社に居よう」と思われたら、最高のモチベーターになれたという点で上司・管理者として大成功だと言えるでしょう。

 

部下のモチベーションを高めるためにできること

反対に、部下に、「ビジョンが見えない」「この会社で働いていても成長できる気がしない」「魅力的な上司や先輩がいない、ああなりたいと思える人がいない」と思われたら、モチベーション管理上、とても深刻です。上司であり管理者である皆さんが、部下にとって理解しやすい言葉でビジョンを示し、成長の道しるべを示し、親身になって関わることが必要です。

ここで言う「道しるべ」とは、「今いる位置でこういう能力を身に着けたらああいうことができるようになる」という将来の姿を連想させることです。つまりOffJT(座学)での教育だけではなく、今やっていることを通して成長・変化ができるという新たな視点を与えることです。

1つ事例をご紹介します。

IT企業で管理職をしているAさん(40歳)は30代の頃、社内でエンジニアと営業担当者がコミュニケーションの行き違いや立場の違いによってしょっちゅう喧嘩をしてモチベーションを損なっているのを見て心を痛めていたそうですが、

営業担当者たちには「もし社内でエンジニアを味方につけることに成功したら、あなたは間違いなくタフネゴシエーターになって、どんなお客さんにも対応できるようになるはず。」と励まし、

エンジニアたちには「いずれあなたもセールスエンジニアになるかもしれないし、『彼らから学んで利用してやろう』と思うくらいの気概があっても良いのでは?」と言って励まし続けたそうです。

最初は反発はあったけど根気強く成長を促し、仲を取り持つ努力をした結果、やがて双方が融和し雰囲気もよくなり、Tさん自身も希望していた人事部に異動してもらえたそうです。

実のところ、部下のやる気が高まらないのは、「不満」というよりは、むしろ「不安」が原因です。「この会社で働き続けていて大丈夫なのか?不安だけど、社外でも通用する力を身につける時間もない・・・どうしよう不安が募る・・・」という思いを抱いています。

そのような心理状態の部下達に対して、ただ自分が熱心に仕事をする姿勢を見せつつそのようにやらせることよりも、『今の仕事によって成長し変化できたら、どんなチャンスをつかみ得るのか?』理解してもらうことが大切です。

 

まとめ

「人はそれぞれ異なる。」

このことを頭でわかっていても、部下育成やモチベーション管理において、個々に適切に接することは本当に難しいものです。今回は特に「モチベーションの源泉の違い」についてご紹介して参りましたが、部下の世代は特に、「成長の喜び」「自分自身が変化する甲斐」を感じられることがポイントになるかと思います。指導者として魅力的だと言える自分を作ることと共に、部下達が変化と成長を実感できる環境作り声掛けを心掛けて頂けたらよいと思います。