「褒められて育った世代」を育成するために必要な謙虚さと感性について

「褒められて育った世代」を育成するために必要な謙虚さと感性について

今の若者たちは、褒められて育った世代と言われています。そんな若者たちを育成する職場のリーダーたちには、褒めるマネジメントが求められますが、ただ褒めれば良い訳ではなく、「部下を操作しようとしない心からの承認」を心がけることが肝心です。そのために必要な、リーダー自身の謙虚さと感性の開発について、解説いたします。

「褒められて育った」若者たち

「子供を厳しく育てるべきか」それとも「褒めて優しく育てるべきか」の趨勢は、数十年単位で変わっていくと言われています。日本では1990年代頃から、当時欧米で主流だった「褒めて育てる」文化が取り入れられるようになり浸透していくようになりました。人材育成の手法であるコーチング理論が大企業を中心に日本に浸透し始めたのもこの頃です。

実際、企業内研修などで40代以上の管理職の方々からお話を聞くと、「自分は家庭や学校で厳しく育てられた」と言う方がとても多いです。特に父親、先輩が厳しかったと。反面、20~30代の若い世代の人たちは「自分は家庭や学校で褒められて育った」と言う人が圧倒的に多く、中には「自分は褒められて伸びるタイプです」と自己申告する人もいるくらいです。

もちろん、育て方によって親や教師の愛情が変わる訳ではありませんし、関係性やその子の個性によってベストな育て方は異なると思いますが、今の若者たちは上の世代の人たちに比べて、褒められることに慣れていて、直接的に伝えてもらってこそ自分が認められていると実感でき、成長への意欲を持ちやすいことは間違いないと思います。

今の若者たちに対しては、「厳しさの中にある無言の愛情を感じ取ってほしい」と期待するよりも、意識的に美点や評価できるポイントを見つけて褒めることがより効果的ですし、時流にあったマネジメントと言えるでしょう。

 

部下を操作しようとしていないか?

しかし、いくら職場のリーダーが部下の成長を望むからと言って、やみくもに褒めれば良い訳ではありません。米ウェスタン行動科学研究所のリチャードファーソン元所長は、「褒めること(承認すること)」の弊害について厳しく言及しています。

「相手を操作したいという意図に基づいた承認は、相手に抵抗感を生じさせる。承認を与えた相手が『褒めた見返りを期待されている』と感じると、強い抵抗感を示すようになる」。
(‘Management of the Absurd’ 邦題『パラドックス系』早川書房)


つまり、「こういう風に褒めればやる気を出してくれるだろう」、「褒めたら上司である自分を尊敬してくれないかな・・・」など、何かの思惑があって褒めた言葉は、聞く人にとってウザイ言葉でしかありません。特に、神経が鋭利で褒められ慣れている若者たちは、「本気で自分を認めて言ってくれている言葉」なのか、それとも「自分を意のままに動かしたい単なるお世辞やごますり」なのか、即座に聞き分けてしまいます。このことを肝に命じ、人を褒める時には、見返りを期待したり私利私欲を交えたりせず、「心からの承認」の言葉を敬意を持って伝えなければなりません。

 

どうしたら「心からの承認」ができるか?

では、どうしたら「心からの承認」ができるようになるのでしょうか。

世の中に出回っているコミュニケーションに関する本を見てみると、褒めることについてはテクニックやノウハウが書かれていることが多いですが、この問題の本質的な答えは「リーダー(上司)自身が、自分の弱みを自覚すること」。このことに尽きると思います。

なぜでしょうか?

自分の弱み、足りなさを自覚できているリーダーは、自分一人では組織を運営できないし組織目標を達成できないから、自分の弱みを補完してくれる仲間や部下の存在を認めるし、自分にはない強みを持っている人を貴重に思うしかありません。

例えば、「自分にはこんな緻密な作業は無理だ」という弱みの自覚が、「やってくれる人がいて助かる」という感謝に変わり、「Aさんは几帳面で自分がやったら倍の時間がかかる仕事をパパっとやってくれて助かるよ」という承認の言葉を生み出します。また、「自分は疲れるとピリピリした雰囲気を出してしまう」という弱みの自覚が、「ちょっと鈍感だけどニコニコしている人が職場にいることで、自分の弱点をカバーしてくれている」ことへの感謝を生み出し、「Bさんの笑顔は職場を明るくして良いですね」という承認の言葉を生み出すようになります。

つまり、組織の発展にコミットしつつも自分の弱点を自覚するリーダー(上司)は、意図的に人を褒めようとしなくても、感謝と承認の言葉が自然に出てくるものなのです。

一方、自分の強みは自覚できるけど、プライドが高くて自分の弱みを自覚できないリーダーは、「部下を自分と同じように有能な人材に変えるためにはどうするか?」という考えが根底にある状態で部下を褒めようとするので、「(君はこういう点はできていないけど)ああいう点はできているよね」という褒め方をするようになります。そこには当然感謝は伴いませんし、心からの承認というよりも、何とか相手を変えようとする操作の意図が含まれてしまいます。結果的にその言葉は相手に届かず、褒めること、承認することの効果が発揮されなくなってしまいます。

「心からの承認」に必要なこと、それは褒めるノウハウやテクニック以上に、自分の足りなさを認め、他人の強みを発見する感性にあるのです。

まとめ

今回は「褒めること」について解説いたしました。そもそも褒める行為は「親が子を褒める」など上下関係に基づいていることが多いですが、「心からの承認」をするためには、上からではなくむしろ謙虚な姿勢で自分の足りなさを認めることが前提となります。人を操作しようという意図を込めて褒めることに励むよりも、他者の美点が自然と目に入り承認したくなる謙虚さと感性の開発に勤むこと、このことがリーダーが部下を育てて伸ばすことに成功する近道と言えるのではないでしょうか。